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東京都におけるノロウイルスGII.17流行の分子疫学

(IASR Vol. 38 p.5-6: 2017年1月号)

2015年以降, ノロウイルス(NoV)の新規遺伝子型GII.P17-GII.17の流行が世界的な話題となり, 国内および海外諸国で本遺伝子型の流行が広く報告されている。今回, 東京都における過去3シーズンのGII.17の流行状況について報告する。

食中毒あるいはヒト-ヒト集団感染が疑われ, 東京都健康安全研究センターに検査依頼があった事例(他自治体で発生した食中毒等の関連調査での検体も含む)のうち, NoV陽性となったのは2013/14シーズンは196, 2014/15シーズンは251ならびに2015/16シーズンは195事例であった。これら642の事例を対象にN/S領域の遺伝子増幅およびダイレクトシークエンスを実施し1), 得られた塩基配列情報を元にNorovirus Genotyping Tool Version1.0による遺伝子型別を行った(図12)。GII.17は2013/14シーズンにはわずか2事例(1.0%)の検出であったが, 次の2014/15シーズンには33.1%(83/251), さらに2015/16シーズンでは42.6%(83/195)から検出され, この2シーズンにおいては最多遺伝子型となった。一方, GII.4は2013/14シーズンには55.1%と半数以上を占めていたが, 2014/15, 2015/ 16シーズンではそれぞれ21.1%(53/251), 25.1%(49/ 195)となり, GII.17の検出割合を下回っていた。さらに, GII.17検出例のうち全長解析を行った87例(2012/ 13シーズンに検出された2例含む)はすべてGII.P17-GII.17であり, 系統樹上, 5例がHu/GII.P17-GII.17/Kawasaki323/2014/JP(Kawasaki323株)と同一のクラスターに属していたが, 82例はHu/GII.P17-GII.17/Kawasaki308/2015/JP(Kawasaki308株)と同一のクラスターに属していた(図2)。Kawasaki323株と同一のクラスターに属していた検体は2012/13シーズンに検出された2例および2013/14シーズンに検出された2例と2015年8月に検出された1例であった。既報によれば, Kawasaki308は, Kawasaki323よりも時系列進化の観点から新しい株であり4), GII.17は, Kawasaki323から, Kawasaki308の亜株に進化しつつ流行を維持していると考えられた。また, GII.17の検出状況を月別に辿ると, 2014/15シーズンにおいてはシーズン当初にわずか1事例のみしか検出されていなかったが, 年が明けて2015年1月以降に検出事例が急増していた。2015/16シーズンにおいても同様に, 9~12月までは9事例しか検出されていなかったが(同期間のGII.4は15事例), 2016年1月以降に検出事例が増加し, シーズンを通して83事例が検出された。GII.17は, 2シーズン続けて検出数のピークが1月以降と, 他の遺伝子型と比較して遅いが, シーズンを通して積算すると, 検出数が最多の主要流行株(遺伝子型)となった。

今までのところ, GII.17は小児の感染性胃腸炎事例からの検出が少ないことが指摘されている3)。東京都において, 過去3シーズンに小児施設で発生した114事例と小児施設以外での事例528例で検出されたNoVの遺伝子型のうち, 検出数が多かった上位5遺伝子型の検出割合を比較した。その結果, GII.17は小児施設以外では約30%で検出されていたのに対し, 小児施設では7.0%程度であった。以上から, 東京都においても, 同様の傾向が認められることが明らかになった()。GII.17の検出が他の遺伝子型(GII.4)に比し, やや遅れて増加し始める点, 小児での検出が少ないという傾向についてはまだ十分な考察ができていない。今後, これが偶然なのか, また, 一部の地域だけでみられた特徴なのか, 様々な角度から検証を試みるとともに, 2016/17シーズンにおいても遺伝子型解析を進め, 東京都におけるNoVの流行状況の解明に役立てたい。  

参考文献
  1. Kageyama T, et al., J Clin Microbiol 41(4): 1548-1557, 2003
  2. 片山和彦ら, IASR 35: 173-175, 201435: 173-175, 2014
  3. 楠原 一ら, IASR 36: 91-92, 201536: 91-92, 2015
  4. Matsushima Y, et al., Euro Surveill. 20(26); pii: 21173, 2015

東京都健康安全研究センター微生物部
 宗村佳子 木本佳那 小田真悠子 奥津雄太 秋場哲哉 貞升健志
国立感染症研究所感染症疫学センター第六室 木村博一
北里大学北里生命科学研究所感染制御科学府ウイルス感染制御学I 片山和彦

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