国立感染症研究所

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アメーバ性腸炎の内視鏡診断

(IASR Vol. 37 p.246-248: 2016年12月号)

はじめに

アメーバ性腸炎は,赤痢アメーバEntamoeba histolyticaが大腸粘膜へ感染することにより発症する。以前は,発展途上国からの帰国者による輸入感染症として重要視されていたが,近年では,国内において男性同性愛者を中心とした性感染症の一つとして認識されつつある1)。その感染動向は男女ともに増加傾向であり,内視鏡検査で診断される症例が増加している1,2)

アメーバ性腸炎の症状は,急性・慢性下痢,血便,腹痛などを呈することが多いため,腹部症状の精査目的に内視鏡検査を施行される機会は多い。内視鏡検査は,特徴的な画像(内視鏡所見)が得られるだけでなく,腸液や粘膜組織を採取することが可能であり,感染性腸炎や炎症性腸疾患などの同様の腹部症状を呈する疾患との鑑別を行う上で有用である。一方,アメーバ性腸炎は症状を呈さないことも多い3)。便潜血陽性の大腸内視鏡検査による本邦からの検討では,5,193例中4人(0.1%)にアメーバ性腸炎をみとめた4)。また,HIV感染者を対象とした研究では,内視鏡検査時に無症状であった71例中8例(11.3%)にアメーバ性腸炎を認めた5)。したがって,典型的な腹部症状を有する患者だけでなく,大腸癌スクリーニングなどの無症状者にもアメーバ性腸炎を認めることを念頭に置き,典型的な内視鏡画像所見を把握しておくことが重要である。本稿では,国内で増加しつつあるアメーバ性腸炎の典型的な内視鏡画像所見および内視鏡検査時に採取すべき検体,およびその診断精度に関して概説する。

赤痢アメーバ性腸炎の内視鏡所見

アメーバ性腸炎における内視鏡所見は多岐にわたる。腸粘膜紅斑・多発する白色浸出物を呈するため偽膜性腸炎と類似した所見を呈した症例6),多発性潰瘍所見から潰瘍性大腸炎と診断加療されていた症例7),止痢薬内服後に重症化した中毒性結腸症8)など数多くの病態が報告されている。

アメーバ性腸炎と他の腸炎との鑑別のための内視鏡検査におけるポイントは,部位,大きさ,病変数,病変の特徴的な画像所見を把握することが必要である9)。部位に関しての最大の特徴は,回腸末端に病変を認めないこと10,11)である。これは,細菌性腸炎やクローン病,腸結核などが回腸末端に病変を有することから鑑別には極めて有用である。また,好発部位は全大腸に認めるが,盲腸または直腸に認める頻度が高く,中でも盲腸が最多部位であり10,11),感度80%・特異度54%と報告されている10)。したがって,内視鏡検査施行時は回腸末端まで観察を行うことが重要である。病変の大きさに関しては,大小不同であるため鑑別には有用でない10)。病変の数に関しては,多発病変を呈することが多いことが特徴である(図a8)。ただし,稀ではあるが単発病変で腫留状の所見(Ameboma)を呈することがある(図b)。これは,大腸に限局性の炎症が生じた結果,壊死組織による腫瘤形成が起こり,あたかも腫瘍のように見えるものであり,大腸癌との鑑別が必要とされる12)。アメーバ性腸炎の特徴的な内視鏡像は,アフタ・びらん(図c),境界明瞭な潰瘍(図d),白苔(図e),たこいぼ状変化(bump)(図f)である。特に,潰瘍に付着する頑固な白苔所見が特徴的であり,感度88%,特異度74%,非アメーバ性腸炎群に対してOdds比25.3(95%信頼区間8.7-73.1)であるとされる10)。たこいぼ状変化は,特異度95%と高いが,感度は12%と低いことに注意が必要である。つまり,たこいぼ状変化がなくともアメーバ性腸炎は否定できない。様々な内視鏡所見を抽出し,アメーバ性腸炎の予測能を検討したわが国からの研究によると,盲腸病変,多発性病変,白苔所見の組み合わせが多変量解析で有意な所見であり,その組み合わせによるアメーバ性腸炎の予測能(ROC-AUC)は0.89(95%信頼区間0.82-0.95)であった。また,びらん・小潰瘍の周囲粘膜の血管透見不良例がないことが,潰瘍性大腸炎との鑑別が有用との報告もある13)
 

内視鏡検査で行える腸液採取および粘膜組織採取の診断精度

内視鏡検査は,病変部の腸液採取,粘膜組織採取が行える9,15)。採取された腸液は,鏡検法,PCR法により診断が可能であるが,鏡検法に適した状態保存のためには採取後速やかに観察する必要があること,また,判定には熟練の経験を要するなどの問題点がある。腸液検体の鏡検法による感度は,70%である16)。粘膜組織の病理学的診断では,ヘマトキシリンエオジン(HE)染色だけで診断可能な場合がほとんどであるが,periodic acid-Schiff(PAS)染色を追加したほうがより明瞭となる。内視鏡検体によるアメーバ性腸炎の診断精度に関して,生検による粘膜組織の病理診断の感度は,HE染色で88%,PAS染色で88%と比較的高い15)。一方,粘膜組織の鏡検法の感度は58%であり,粘膜組織採取した場合,病理診断の診断精度を用いることが肝要である15)。また,国内で使用されているアメーバ抗体法は,アメーバ性腸炎の予測に対して感度89%・特異度87%の診断精度であるため,補助診断で有用となる17)。このように,アメーバ性腸炎の早期診断および確定診断のためには,可能な限り回腸末端までの観察を行い,他疾患の鑑別を含め生検組織採取や腸液採取を施行し,病理医には臨床情報を伝えた上で可能であればPAS染色を行う。アメーバ性腸炎をはじめとした感染性腸炎の精査目的の内視鏡検査で,検査に伴う有害事象を認めないことから,診断的な内視鏡は安全といえる15)

さいごに

わが国では,アメーバ性腸炎は,性行為感染症として今後も増加していくことが予想される。下痢,血便,腹痛などの典型的な症状を呈する場合だけでなく,無症状患者でもアメーバ腸炎が存在することを念頭に,内視鏡診療を行うことが重要である。内視鏡では,回腸末端までの観察を心がけ,盲腸または直腸に多発,白苔,びらん,潰瘍等の所見を認めた場合は本疾患を疑う。発見時には,腸液と粘膜組織採取を可能な限り行い,鏡検法,病理評価を行うことが望ましい。アメーバ性腸炎を疑う医師,内視鏡医師,病理検査や鏡検を行う検査技師および病理医師の情報の共有と連携がアメーバ性腸炎の早期診断,確定診断に欠かせない。

  

参考文献
  1. Nagata N,et al.,Emerg Infect Dis 2012; 18(5): 717-724
  2. Ishikane M,et al.,Am J Trop Med Hyg 2016; 94(5): 1008-1014
  3. Petri WA,Singh U,Enteric Amebiasis,Tropical Infectious Diseases: Principles,pathogens,and practice,Second ed,Philadelphia: Elsevier 2006: p967
  4. Okamoto M,et al.,Am J Trop Med Hyg 2005; 73(5): 934-935
  5. Watanabe K,et al.,Am J Trop Med Hyg 2014; 91(4): 816-820
  6. Koo JS,et al.,Gastrointes Endoscopy 2010; 71(2): 400-401
  7. Den Y,et al.,BMJ Case Rep 2015; 25
  8. McGregor A,et al.,J Trop Med 2007; 14: 61-62
  9. 永田尚義,日本消化器内視鏡学会雑誌 2012; 54(9): 3180-3188
  10. Nagata N,et al.,Endoscopy 2012; 44: 425-428
  11. Horiki N,et al.,J Infect Chemother 2015; 21: 444-448
  12. Mirsa SP,et al.,World J Gastroenterol 2006; 12: 116
  13. 大川清孝,清水誠治(編): 感染性腸炎A to Z,第2版,医学書院,東京,2013
  14. 永田尚義,感染性腸炎の内視鏡診断,消化器内視鏡,東京医学社,東京,2015
  15. Nagata N,et al.,Clin Gastroenterol Hepatol 2013; 11: 673-680
  16. Conn’s current therapy 2017,1st Edition,p 77-79
  17. Nagata N,et al.,Diagn Microbiol Infect Dis 2012; 74: 374-378

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 エイズ治療研究開発センター 柳川泰昭
 消化器内科 永田尚義

 

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