国立感染症研究所

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沖縄県内における流行性耳下腺炎の流行と重症例に関する積極的疫学調査(2015年)

(IASR Vol. 37 p.192-194: 2016年10月号)

はじめに

流行性耳下腺炎は, ムンプスウイルス(MuV)による感染力の強い感染症で, 飛沫または接触感染により2~3週間の潜伏期間を経て, 耳下腺・舌下腺の腫脹や発熱の症状で発症する。合併症としては, 無菌性髄膜炎や睾丸炎, 卵巣炎および難聴があることが知られる。

国内では, 概ね4年周期で流行がみられ, 年齢別では4歳をピークに3歳~6歳頃に多く発症してきた。

沖縄県では, 感染症発生動向調査事業において, 2014年10月頃(第41週)~2016年第22週現在に至るまで, 地域を変えつつ, 断続的に流行している状況が観察されており(図1), かつ流行しているウイルス株は遺伝子型Gに含まれるものの, さらにサブタイプにおいてはGw, Ge, Ghkの3種類が検出される状況であったことを報告した1)(本号3ページ参照)。

流行性耳下腺炎は感染症発生動向調査事業に基づく定点把握疾患のため, 患者の全数は把握できないが, 長期の流行により, 無菌性髄膜炎や難聴等の警戒すべき合併症を発症している者も一定数発生していることが想定され, 感染症対策上看過できないことから, 今回, 沖縄県内における流行性耳下腺炎の流行に伴う合併症等の発生状況を調査した。

調査方法

2015年1~12月, 沖縄県内において流行性耳下腺炎に伴う小児科入院例, および流行性耳下腺炎流行に伴う難聴症例(入院の有無は問わず)を対象に, 以下の症例定義に基づき, 積極的疫学調査を補完する形で行われた。調査方法としては, 沖縄県内の入院施設のある小児科医療機関(計15機関)および外来クリニックを含む耳鼻咽喉科医療機関(計63機関, うち入院施設のある小児科医療機関14機関含む)に対し, 流行性耳下腺炎の合併症に係る調査票を送付し, 症例単位で医師が回答した後, 回収した。

症例定義

・疑い例:臨床診断により, 流行性耳下腺炎による合併症として, 以下の理由により入院したもの(前医による診断, 血清または尿中アミラーゼ上昇例を含む)。なお, 難聴については必ずしも入院を必要としない。
 - 無菌性髄膜炎
 - 難聴(流行性耳下腺炎発症後1カ月以内(多くは18日以内)の急性高度難聴発症である場合に該当)
 - 膵炎
 - 睾丸炎
 - 卵巣炎
 - 脳炎
 - 心筋炎
 - その他(乳腺炎など) 

・可能性例:他の確定例, または集団発生と疫学的リンクがあるもので, 臨床診断による疑い例の基準を満たすもの

・確定例:特異的IgM, ペア血清陽転, PCR, ウイルス分離で確定診断されたもので, 臨床診断による疑い例の基準を満たすもの

調査結果

症例数は78例, うち確定例18例(23%), 可能性例12例(15%), 疑い例48例(62%)であった。年齢分布は1~33歳(中央値6歳), で, 6歳(16例)が最も多く, 次に5歳(12例), 7歳(7例), 8歳(7例)と続いている(図2)。また, 性別では, 男性53例(68%), 女性25例(32%)と, 男性が2倍以上多くみられた。

合併症別では, 髄膜炎が39例(50%)と最も多く, 次に難聴13例(17%), 睾丸炎4例(5%)であった(図2)。また, その他の回答として, 熱性痙攣5例, 痙攣重積1例, 急性腎不全1例, SIADH 1例, 急性小脳失調1例などが報告された。髄膜炎を合併した39症例のうち, 4~6歳までが22例(56%)であった。睾丸炎の全4例は12~15歳の思春期層にみられた。

ムンプス難聴13例については, 性別では女性7例(54%)と性差は無かった。年齢分布では, 2~33歳に患者がみられ, 8歳(3例)が最も多かった。ムンプス難聴と診断された13例のうち, 日本聴覚医学会難聴対策委員会による難聴基準2)に基づく難聴の程度は, 重度難聴6例(46%), 高度難聴2例(15%), 中等度難聴3例(23%)であり, また難聴の程度を確認できたすべての症例が一側性であった。

ワクチン接種歴について, 接種有りが3例(4%), 接種無しが36例(46%), 不明が39例(50%)あった。また, 接種時期, 回数については十分な情報を得ることができなかった。

まとめ

2014年10月以降の本県における流行性耳下腺炎の流行状況は, これまでと異なり, 流行地域を変えつつ, 2016年第22週現在も長期化している。

流行性耳下腺炎は, 年齢が高くなるにつれ合併症の発生率も高くなる3)こと, また, 合併症の中でも難聴は治療の効果が認められず4), 永続的な障害となる場合がある。今回の調査でも, 現在の流行に伴う髄膜炎や難聴などの合併症症例があり, うち難聴症例が13例確認された。すべて1歳以降の症例であり, 1歳時点のムンプスワクチンの接種によりこれら合併症が予防できた可能性は否定できない。

現在, おたふくかぜワクチンは任意接種となっているが, 発症後の基本的な治療は対症療法が主であることからも, ワクチンを接種するかどうかの判断材料として, こうした流行性耳下腺炎の合併症に係る情報を, 県民により広く周知する必要性があるものと考える。

最後に, 本調査にご協力頂いた医療機関の関係各位に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 久場由真仁ら, IASR 37: 187-188, 2016
  2. 日本聴覚医学会難聴対策委員会, 難聴対策委員会報告-難聴(聴覚障害)の程度分類について-6
  3. 庵原俊昭ら, IASR 34: 221-222, 2013
  4. 工藤典代, IASR 34: 228-230, 2013

沖縄県感染症情報センター 伊波善之 大城裕子
沖縄県衛生環境研究所
 久場由真仁 喜屋武向子 仲間絵理 髙良武俊 加藤峰史 岡野 祥 久髙 潤
沖縄県健康長寿課 仁平 稔 山内美幸
那覇市保健所 安藤美恵
国立感染症研究所感染症疫学センター
 神谷 元 砂川富正 小林祐介(協力研究員)
国立感染症研究所ウイルス第三部 木所 稔

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