国立感染症研究所

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国内でムンプスウイルスに感染し, 米国ホームステイ先および帰国後にムンプスを発症した3症例

(IASR Vol. 37 p.195-197: 2016年10月号)

2016年7月17日~8月7日まで, A英語教室在籍の12名(小学2年生から高校1年生までの男女)と付き添い1名が米国ユタ州ソルトレイクシティでホームステイを行った。そのうち1名が米国で流行性耳下腺炎(ムンプス)を発症し, 同行者は血液検査を実施され帰国した。帰国後にムンプスを発症した同行者2名を経験したので報告する。

米国での経過

2016年7月17日に中部国際空港(セントレア)からデトロイト経由でソルトレイクシティ国際空港へ渡航した。現地では全員が1軒の家にホームステイを行い, 現地の学校に行くなどの活動を行った。同行者のうち1人が現地で体調不良となり, 7月28日に米国でムンプスと診断された(Index case)。7月29日, 同行者12名とホストファミリー, 帯同者は全員血液検査が行われ, 抗体測定が実施された(血液はアトランタに搬送されたとの情報あり)。8月7日にソルトレイクシティ国際空港からデトロイト経由でセントレアに帰国した。

Case 1:13歳男児
 2007年8月20日(4歳4か月時)に, おたふくかぜワクチンを接種(ロット番号:G103)。

2016年7月29日, 米国で行った血液検査でMumps IgG 73.1 AU/mL(CIA法):抗体陽性と判断された()。8月7日に帰国。8月9日から右顎下腺腫脹あり, 近医受診。8月10日に顎下腺腫脹と疼痛を認め当院受診し血液検査実施, アミラーゼは116 U/Lと正常範囲であり, 経過観察となった。8月11日から発熱あり。8月12日に外来受診し, 8月10日のムンプス特異的IgG抗体価が15.2(EIA法)と判明したが(), ムンプスと断定できないとして解熱剤のみ処方されて帰宅した。8月15日, 36.9℃に解熱し外来再診, 右顎下腺腫脹は縮小し, 圧痛も消失していた。8月16日, 37.5℃の微熱とともに右耳下腺の腫脹を認め当院再診。血液検査を実施し, アミラーゼ197 U/Lと上昇を認めたため, 耳下腺炎と診断され帰宅した。8月19日に当院再診。17日以降は解熱しており, 耳下腺腫脹も消失していた。8月16日の血液検査の結果(表), ムンプスIgG抗体価36.2(EIA法)とペア血清でIgG値は2倍以上に上昇しており, ムンプスと診断した(8月19日に口腔内, 右耳下腺開口部中心に唾液を採取し, 民間検査センターにウイルス分離を提出したが陰性であった)。

Case 2:9歳男児
 おたふくかぜワクチン接種歴無し。

2016年7月29日, 米国で行った血液検査でムンプスIgG <5.0 AU/mL(CIA法):抗体陰性と判断された()。8月7日に帰国。8月9日から両側の耳下腺腫脹, 発熱を認め, 近医受診しムンプスと診断され, その後も発熱が持続した。8月12日, 発熱, 頭痛, 嘔吐が続き経口摂取困難のため当院に紹介され入院した。38.0℃の発熱の他, 両側の耳下腺腫脹とともに, 項部硬直も認めた。血液検査ではアミラーゼ1,018 U/Lと上昇, 髄液細胞数31であり, 髄膜炎と診断した。同日の検査の結果(表), ムンプスIgG抗体価17.3(EIA法), IgM 13.73と判明したため, ムンプス髄膜炎と診断した。8月16日に症状は改善し退院した。

なお, これら家族からの情報によると, Case 1, Case 2の他2名が同様にムンプスと診断され, その兄弟も1名がムンプスを発症したとのこと。

考 察

2016年は全国的にムンプスの流行がみられており, 愛知県でもムンプスの流行がみられている。ムンプスの潜伏期間は主に16~18日(12~25日までの範囲)とされており1), Index caseは日本での流行によりムンプスに感染, 潜伏期に米国渡航し, 現地で発症したと考えられた。また, Case 1, Case 2いずれもIndex caseに曝露することで, 日本に帰国後発症したと考えられた。

現在日本におけるおたふくかぜワクチン接種率は30%程度と推定されている2)。Index caseのワクチン接種歴は不明であった。Case 1は1回のおたふくかぜワクチン接種歴があり, 米国でのムンプス曝露時の抗体検査でも抗体陽性と判断されていたが, 帰国後顎下腺腫脹を認め, その後に耳下腺腫脹も認めた。IgG抗体(EIA価)は2倍以上に上昇しており, Vaccine failureによるムンプスと診断した。集団生活による濃厚接触が影響したと考えられる。Case 2はおたふくかぜワクチン接種歴も無く, 髄膜炎を発症し入院治療を行った。いずれの症例も難聴などの後遺症なく軽快した。おたふくかぜワクチンは任意接種であり, ワクチン接種率は低い状況であるが, 海外渡航前には接種することが強く推奨される他, ワクチンの定期接種化による接種率の向上が望まれる。

2007年, 日本で麻疹が流行していた際には, 日本の高校生がカナダへの修学旅行時に現地で発症したケース3)や, 小学生が米国の野球大会参加時に発症したケース4)で麻疹輸出国として問題となった。本症例では, 米国でムンプスを発症し, 同行者, 濃厚接触者の血液検査は実施されたが, 幸い本稿執筆時点では, 本症例に関連した現地でのムンプス流行の報告はない。

 

参考文献
  1. 30th ED Red Book 2015 Report of the Committee on Infectious Diseases, American Academy of Pediatrics
  2. おたふくかぜワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)
    http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bybc.pdf
  3. 菊池今次, IASR 30: 36-39, 2009
  4. CDC, MMWR Feb 22; 57(7): 169-173, 2008

名古屋記念病院小児科
 鈴木道雄 加藤真生 服部典子 池田 圭 徳永博秀 森田 誠 長谷川真司

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