国立感染症研究所

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B型肝炎血清疫学・感染症流行予測事業調査結果―千葉県

(IASR Vol. 37 p. 155-156: 2016年8月号)

B型肝炎ワクチンは2016(平成28)年10月に, 生後1歳に至るまでの間にある者を対象に定期接種が開始される。国は定期接種開始前後の流行状況およびその効果を検証する目的で, 2015(平成27)年度から感染症流行予測調査事業に, HBs抗原, HBc抗体, HBs抗体の調査を追加した。千葉県はこの目的に賛同し, これらについて測定を実施した。

材料および方法

血清は, 成人層(20歳以上)では, 献血で集められた健康人および感染症担当の保健所職員の血清であり, 20歳未満では千葉県内病院2施設において, 感染症流行予測調査事業の調査対象疾病以外で受診した際に集められたものである。ともに文書による同意を得て7~9月に採血された。年齢群別検体数は, 0~4歳群19検体, 5~9歳群25検体, 10~14歳群28検体, 15~19歳群17検体, 20~24歳群6検体, 25~29歳群9検体, 30~34歳群12検体, 35~39歳群15検体, 40~44歳群12検体, 45~49歳群11検体, 50~54歳群9検体, 55~59歳群15検体, 60歳以上群8検体であり, 計186検体を用いた。検査はシーメンス社の「B型肝炎ウイルス表面抗原キット エンザイグノスト®HBsAg6.0」,「B型肝炎ウイルスコア抗体キット エンザイグノスト®Anti-HBc monoclonal」,「B型肝炎ウイルス表面抗体キット エンザイグノスト®Anti-HBsⅡ」, を用いて実施した。

結 果

HBs抗原:B型肝炎ウイルス(HBV)に感染していると考えられるHBs抗原陽性者(キャリア)はいなかった。

HBc抗体:B型肝炎既往歴のマーカーとして測定されるHBc抗体陽性者は, 186名中1名(0.54%)8歳児であった。国立感染症研究所(感染研)の詳細な検査の結果, HBVの遺伝子は検出されなかった。

HBs抗体:HBs抗体は, HBVの感染を防御する働きがあり, HBVに対する免疫ができていることを示す抗体である。抗体価≧10mIU/mLを陽性とした場合, 31名(16.7%)が陽性であり, このうちワクチン接種者は24名(77.4%), 接種歴不明6名, 未接種者1名であった。一方, 抗体陰性者は155名(83.3%)であり, 未接種者93名, 接種歴不明58名であったが, ワクチン接種歴が明瞭にありながら4名(2.5%)は抗体価が陰性と判定された。

年齢群別の抗体保有率は, http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6359-hpv-yosoku-serum2015.htmlの通りである。

考 察

HBs抗原陽性者はみられなかったものの, 過去の感染が疑われるHBc抗体陽性者は1名確認された。「平成27年度感染症流行予測調査実施要領」に従い, 検体を感染研ウイルス第二部第五室に送付し検査を依頼した。Sugiyamaらの方法(Hepatology Research 2011; 41: 936-945)による遺伝子検出でHBVの増幅はみられず,「陰性」の判定を受けた。さらにこの1名は, 接種時期等の詳細は不明であるが2回のワクチン接種をしており, HBs抗体も保有していた。

HBs抗体陽性者は16.7%であり, その77.4%がワクチンを接種していた。また, ワクチン接種したにもかかわらず抗体が陽性化しない者が4名(2.5%)にみられた。

年齢群別に抗体保有状況をみると, 20歳未満では0~4歳群で, 19名中3名が抗体陽性者であり, うち2名がワクチン接種済み, 1名が接種歴不明であった。5~9歳群では, 25名中1名が抗体陽性者でありワクチン被接種者(HBc抗体陽性者)であった。以後25歳未満までは抗体保有率は低値であったが, 25歳以上では抗体保有率は上昇した。25歳以上の抗体保有についてはワクチン被接種者の増加の効果に加えて, HBV感染者の増加の影響も示唆された。

20歳未満89名のうちワクチン接種歴のある者は4名(4.5%)で, 成人の97名中26名(26.8%)と比較しても非常に低率である。今回, 20歳未満のワクチン接種者の採血時年齢は, 0歳, 3歳, 8歳, 10歳といずれも低年齢であり, 1985(昭和60)年6月に開始されたB型肝炎母子感染防止事業およびそれを受け引き続き1986年1月に開催された乳児に対する感染防止事業あるいは日本小児科学会推奨の接種スケジュール1)により, 早期にワクチン接種した可能性が示唆された。

B型肝炎の感受性調査は, 今回示されたようにHBs抗原, HBc抗体, HBs抗体を測定することで, 有意義な情報が得られるものと考えている。しかしながら, 過去の調査等により, 陽性者の分布は全国で地域差があると言われている。今回の千葉県のみの調査では, 全国の状況を到底反映できるものでない。B型肝炎ワクチンが定期接種化される今こそ全国的な調査が必要であると考える。

 

引用文献
  1. 公益財団法人日本小児科学会:日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール,
    2016年7月現在URL:
    https://www.jpeds.or.jp/modules/general/index.php?content_id=9

千葉県衛生研究所ウイルス研究室
  小川知子 堀田千恵美 平良雅克 追立のり子 秋田真美子 西嶋陽奈

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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