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B型肝炎ウイルス感染の診断

(IASR Vol. 37 p. 154-155: 2016年8月号)

はじめに

B型肝炎ウイルス(HBV)感染の診断にはHBs抗原およびHBV DNA検査が用いられる。HBs抗原はHBVのS遺伝子から転写翻訳される蛋白質で, ウイルスのエンベロープを構成する。HBs抗原が陽性であれば, HBVの感染状態にあると考えられ, これまでHBV感染のスクリーニングに広く用いられてきた。しかし近年, 高感度のHBs抗原定量系が開発され, 感染の有無のみでなく治療効果の判定や再活性化の診断における有用性が注目されている。一方, HBV DNA測定系は, 肝細胞内のウイルスの増殖を反映しているため肝炎の活動性や予後の予測に有用であり, 肝発癌率との関連性も報告されている。

HBs抗原検査法

HBs抗原の検査試薬として検出(定性)法と測定(定量)法があり, 測定法には近年開発された高感度型のHBs抗原定量系が含まれる。現在, 国内で用いられる主なHBs抗原検出/測定試薬を表1にまとめた。迅速診断等の特殊な場合を除き, 検出感度に優れるELISA法もしくはCLIA法(同等のFEIA/ECLIA/CLEIA/BLEIA法を含む)が用いられている。しかしこれらのキット間においても最小検出感度に差があるため, 検査結果の扱いには注意が必要である。また, HBs抗原はエンベロープ蛋白質であるため, 免疫反応を回避するエスケープ変異が生じることが報告されている。これらのエスケープ変異はHBs抗原の検出にも影響を与え, ウイルスが増殖しているにもかかわらずHBs抗原が偽陰性となる例があることも知られている。そのため, いくつかのキットでは検出系にpolyclonal抗体もしくは複数のmonoclonal抗体を用いることで偽陰性となるリスクを低減している。また, 高感度型のHBs抗原定量系には, 変異の入りやすいウイルス粒子の表面ではなく, 脂質二重膜内側のエピトープを認識する抗体を使用することにより変異の影響を抑制しているものもある。

新規に開発された高感度型HBs抗原定量系では, 界面活性剤で構造エピトープを変性させることで検体内に含まれるHBs抗体の影響を低減し, さらに通常は膜内に内包されているエピトープも露出させることで高感度を得ている系1)(ルミパルス HBsAg-HQ)と, 検出系に生物発光(ルシフェラーゼ)を用いることで高感度を得ている系2)(BLEIA ‘栄研’HBs抗原)があり, これまで用いられてきたアーキテクト・HBsAg QTと比較して約10倍の高感度が得られている。これらの高感度型HBs抗原定量系はHBV再活性化の予防や早期診断, 核酸アナログ治療の経過観察時における再燃の早期発見など, 新たな適応が期待される。しかしその一方で, 高感度であるためコンタミネーション等による偽陽性のリスクもあり, 検体の取り扱いと測定結果の解釈には十分な注意が必要である。

HBV DNA測定法

現在, HBV DNAの測定には高感度で測定範囲の広いリアルタイムPCR法が用いられている。国内ではアキュジーンm-HBVとコバスTaqMan HBV「オート」v2.0の2種類が利用可能である(表2:2017/12/19更新)。これらのキットはターゲットとする領域が異なり, 測定可能な範囲も異なっている。HBV DNAの測定系においてはHBVの遺伝子型や変異の影響を受ける可能性があり, 複数のプライマーもしくはプローブを用いることによりこれらの影響を抑えている。また, HBV DNA定量値の単位としてcopies/mLが用いられているが, 国際的にはIU/mLを用いるのが一般的であり, 今後国内でもIU/mLに移行すると考えられる。copies/mLからIU/mLへの換算は可能であるが, 換算係数はキットにより異なるため注意が必要である。

おわりに

HBVには少なくとも10の遺伝子型が知られている。これまで国内の慢性肝炎症例からは遺伝子型BとC, 急性感染症例からは遺伝子型Aの株が多く検出されている。しかし近年, これらの株以外にも遺伝子型DやHなど, これまで稀であった遺伝子型も報告されるようになった3,4)。これらの稀な遺伝子型が上記の検査系で, 他の遺伝子型と同様に検出可能であるか, また遺伝子型の異なる株の定量値に相関が保たれているかについては, 今後の検討が必要である。

 

参考文献
  1. Shinkai N, et al., J Clin Microbiol 51: 3484-3491, 2003
  2. 海嶋照美, 他, 肝臓 57: 42-44, 2016
  3. Yamada N, et al., World J Gastroenterol 20: 3044-3049, 2014
  4. 内田茂治, 医学のあゆみ 5: 494-498, 2013
国立感染症研究所ウイルス第二部 加藤孝宣

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