国立感染症研究所

 

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ジカウイルス感染症の実験室診断

(IASR Vol. 37 p. 124: 2016年7月号)

ジカウイルスが世界的に注目されたのは, 2007年のミクロネシアのヤップ島でのジカ熱(ジカウイルス感染症)の流行であった。しかし, ジカウイルスそのものは1947年ウガンダのジカの森で, ロックフェラー研究所が黄熱研究のための捕哨動物として飼育していたアカゲザルから初めてウイルスが分離された(MR766株)1)。ジカウイルスは, フラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるウイルスで, デングウイルス, 日本脳炎ウイルス, 黄熱ウイルス, ウエストナイルウイルスなどと近縁なウイルスである。

日本への輸入症例は2016年6月10日現在で10例であるが, ウイルス分離はそれほど簡単ではない。症状が軽いため発疹や結膜充血に気付いてから受診することも多く, 病初期の検体が入手できないためである。ウイルス血症の期間は, ヤップ島での流行などでは発病日から3~5日とされている2,3)。日本国内の輸入症例はまだ多くないが, 血清中からの遺伝子検出はそれ程多くなく, デング熱と比較するとウイルス血症期間は短いようである。尿からのウイルス遺伝子検出が血液中からの検出よりも期間的に長く, 遺伝子検出の検体として血液と尿を併用することが重要である。デング熱の診断で有用性が確認されている非構造タンパクNS1抗原検出が, ジカウイルスでも検出可能かどうかはまだ明らかではないが, ヒトにおけるウイルス増殖がデングウイルスと似ていることから, ジカウイルスNS1抗原検出の可能性は高く, 検査キットの開発がすすめられている。

血清診断法としては, IgM抗体検査と中和抗体価測定が重要である。重要なことは, フラビウイルス属のウイルス間では抗体の交差反応が強いということである。したがって赤血球凝集抑制反応(HI)法, 補体結合反応(CF)法, IgG ELISA, 蛍光抗体法などによる抗体測定により鑑別することは困難である。しかし, これらの方法も有用である場合がある。それは自己免疫疾患患者や妊婦においてIgM抗体が偽陽性になる場合があり, その場合に, ペア血清でこれらの検査で抗体価上昇の有無をみることで偽陽性を確認することができる。

IgM抗体検査はIgM抗体捕捉ELISA法が汎用されているが, 抗デングウイルスIgM抗体陽性血清(デング熱患者血清)の中にジカウイルスIgM捕捉ELISAに対して交差反応を示すものも存在する。しかし, 血清希釈法によりendpointを比較することで鑑別が可能である場合もあった。逆に, 抗ジカウイルスIgM抗体陽性患者血清が, デングウイルスIgM捕捉ELISAに対して交差反応を示した検体は今までのところないが, 検体数が少ないため可能性は否定できない。ペア血清によるプラーク減少法あるいはフォーカス減少法による中和抗体検査が鑑別の点で最も信頼される試験法であるが, 日本人の多くはワクチン接種や自然感染により, 同じフラビウイルス属の日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有している。また, 黄熱ワクチンを接種している人もいる。このようなフラビウイルス属の抗体を保有している人がジカウイルスに感染した場合は, 中和抗体検査による抗体価の比較によっても鑑別は困難な場合がある4)。IgM抗体のEndpoint法と合わせて判定するということも考えられるが, 日本脳炎ワクチン接種歴, 黄熱ワクチン接種歴, 過去のデング熱罹患の有無の確認が重要である。いずれにしろ世界的な流行状況からジカ熱の輸入症例が増えてくることは想定されるので, 回復期検体もしっかりと確保した上で, 実験室診断のデータを蓄積し, 日本脳炎ウイルス抗体を有するヒトにおける交差免疫反応に関する解析もすすめる必要がある。

ジカウイルス遺伝子検査は国立感染症研究所(感染研), 検疫所および全国の地方衛生研究所で実施可能である。また, ジカウイルスIgM抗体検査は感染研および全国9カ所の地方衛生研究所アルボウイルスセンターで検査可能である。

  

参考文献
  1. Dick GWA, et al., Trans R Soc Trop Med Hyg 46(5): 509-520, 1952
  2. Lanciotti RS, et al., Emerg Infect Dis 14(8): 1232-1239, 2008
  3. Balm MN, et al., J Med Virol 84(9): 1501-1505, 2012
  4. CDC, MMWR, June 3, 2016/65(21)
    http://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/wr/mm6521e1.htm?s_cid=mm6521e1_w

神奈川県衛生研究所 髙崎智彦

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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