国立感染症研究所

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伝染性紅斑の臨床像と京都府福知山地域における成人の伝染性紅斑の地域流行

(IASR Vol. 37 p. 5-7: 2016年1月号)

伝染性紅斑はヒトパルボウイルスB19(以下PVB19)によって起こる感染症だが、成人では多様な症状を呈することが多く、小児と比しその臨床像は大きく異なっている。京都府福知山地域において2014年12月~2015年6月にかけてPVB19による成人の地域流行を経験したので報告する。

患者の詳細をに示す。患者は16名、年齢の中央値は39歳、男3名、女13名と女性に多くみられた。有症状の子供との接触歴があったもの、いわゆる二峰性の経過(後述)を呈したものはともに75%に認めた。症状も多彩であり、成人で特徴的とされる関節痛は88%と最も多く、皮疹、浮腫もともに75%に認めた。病態と深く関連している低補体血症(後述)も約8割で認めた。発生時期は12月、1月の2カ月間で6名と最も多く、この時期に集中して発生していた。同時期に多関節痛等の症状で受診しているがIgMは陰性であった例が2名、さらに確定例の16名の周囲で未受診ではあるが同様の症状を呈していたものが複数人おり、それらを含めると20名を超えていた。

PVB19の感染経路は飛沫感染が主で、家庭内感染が50%と多く1)、子供から拡大することが多い。成人では典型的には二峰性の病歴を呈する。すなわち感染の初期には発熱・悪寒・頭痛などのインフルエンザ様の症状が生じ、いったん症状が軽快した後7日~10日経過してから関節痛、浮腫、皮疹などの症状を起こす2)。初期症状の時期はウイルス血症を起こしており感染力が強い。一方、遅れて生じる関節痛や皮疹は免疫複合体が関節や皮膚に付着することによって起こる。この時期には感染力はほぼ消失している。

関節痛は小児では8%程度と稀だが、成人では60%程度と頻度は高く、特に女性は男性の2倍程度多い3)。程度は軽いものから耐え難い程の強い痛みなど様々で、ときに関節のこわばりを伴う。急性対称性の多関節痛で、手指、足趾等の小関節に多いが、大関節にも生じる。3週間程度で自然と消失することが多いが、稀に数カ月~数年持続する場合もある。しばしば浮腫を伴うが、診察ではわからないような軽度のものから、体重増加を伴うような場合まで様々である4)。浮腫を反映して「指が曲げづらい」、「指輪が抜けにくい」との訴えが多い。

小児における伝染性紅斑では頬部に生じる境界鮮明な紅斑が典型的で、リンゴ病と呼ばれるゆえんである。小児と比し成人では皮疹の頻度そのものが低く、生じる場合は四肢が一般的で、顔面に生じることは少ない5)

低補体血症は比較的頻度が高い所見であり、免疫複合体が産生され補体が消費される結果として起こると考えられている6)。PVB19感染を疑っていた症例では、この病態を意識して補体値を意識して院内オーダーを行い、上述のように約8割の症例で低値を示した。

免疫複合体が腎組織に沈着する結果として、腎機能障害、尿潜血、尿蛋白を呈することがある7)。これは溶連菌感染後急性糸球体腎炎と同様の病態である。溶連菌感染後急性糸球体腎炎と比較して軽症のことが多く、予後も良好であるため腎生検は必須ではないが、腎生検を施行された過去の報告では管内増殖性糸球体腎炎を呈することが多いとされている。今回16例中2例で全身性の浮腫を呈し、尿潜血、尿蛋白を伴う腎機能障害を認めたが、いずれも自然軽快した。

PVB19感染症による他の重篤な合併症として、基礎疾患に溶血性貧血等がある際の一過性骨髄無形性発作(transient aplastic crisis)、免疫不全患者での慢性感染による赤芽球癆(pure red cell aplasia)、妊婦に感染した際の胎児水腫(hydrops fetalis)などがある3)

診断は特異的IgM抗体(EIA法)が有用である。感染から約10日後に上昇し、2~3カ月程度持続する。ある報告では感度89%、特異度99%とされている8)。高齢者の90%以上はIgG抗体陽性(終生免疫)である。執筆時の時点では、妊婦でしか保険適応はない(IgM抗体の診療点数は223点)。

上述のように、成人のPVB19感染は関節痛や浮腫など多彩な症状を呈するため、関節リウマチなどの膠原病との鑑別が重要である。リウマトイド因子、抗核抗体、抗DNA抗体など、自己抗体が偽陽性となることがあり、これらも膠原病との鑑別が難しい理由のひとつである1)。さらに皮疹、血球減少、低補体血症といった全身性エリテマトーデスとの共通点が多いことも問題である9)。本邦における成人のPVB19感染例の報告でも、その約3割が初診時に他の診断名が下されていたとされている5)。我々が今回経験した16名のうち1名も、近医より「膠原病疑い」で当院に紹介されてきた。

このように医療従事者がその病態や臨床経過を認識できていない場合、関節痛や浮腫で医療機関を受診しても少なからず見逃されたり、膠原病疑いを指摘されることで患者の不安感が強くなり、結果として医療機関受診の頻度や検査が多くなれば、あるいは社会にとって損失かもしれない。また、「関節リウマチ疑い」では、関節リウマチに特異的な抗CCP抗体が保険で通るのに対し、PVB19のIgM抗体については現時点では妊婦以外で保険適応が認められていない。

我々は地域の保健所を介して、地域の医療機関宛にPVB19の感染流行の情報提供を行った。また、上記の問題点を含めた情報提供をメディア向けに行ったところ、2015年3月にNHK京都から当院へ取材に来て頂き、「おとなのリンゴ病」に関する報道をして頂いた。また、京都府保険医協会に連絡し、妊婦以外での成人のPVB19 IgM抗体の保険適応に関して同理事会での検討をお願いした。

成人のPVB19の感染例を複数経験した。成人のPVB19感染では多彩な症状を呈し、ときに重篤な合併症を起こすことがある。急性の多関節痛、浮腫、皮疹のすべてあるいは1つの症状があれば、有症状の子供との接触歴を積極的に聴取し、PVB19感染を想起することが重要である。


参考文献
  1. Vassilopoulos D, et al., Arthritis Research & Therapy 10: 215, 2008
  2. Young NS, et al., N Engl J Med 350: 586-597, 2004
  3. Servey JT, et al., Am Fam Physician 75: 373-376, 2007
  4. Nagai Y, et al., Kansenshogaku Zasshi 83(1): 45- 51, 2009
  5. Waza K, et al., Internal Medicine 46(24): 1975- 1978, 2007
  6. Oiwa H, et al., Mod Rheumatol 21: 24?31, 2011
  7. Waldman M, et al., Clin J Am Soc Nephrol 2: S47?S56, 2007
  8. Doyle S, et al., J Virol Methods 90(2): 143-152, 2000
  9. Sève P, et al., Semin Arthritis Rheum 34: 642- 648, 2004

市立福知山市民病院
  総合内科 生方綾史 川島篤志

 

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