国立感染症研究所

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疑似症定点医療機関からの届出状況のまとめ

(IASR Vol. 37 p. 101-102: 2016年5月号)

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」 第14条第1項に規定する厚生労働省令で定める疑似症(以下 「疑似症」 という)の届出状況について以下にまとめる。

疑似症届出制度は, 2007(平成19)年4月1日から, 生物テロを含む感染症の発生を迅速に把握するため, 医師の確定診断ではなく, 疑似症の診断の段階で情報を収集するべく, 指定届出機関による疑似症患者の年齢, 性別等の情報の届出制度として規定されたものである。具体的には, 同疑似症には2つのカテゴリーがあり, 摂氏38度以上の発熱及び呼吸器症状(明らかな外傷又は器質的疾患に起因するものを除く)を一号, 発熱及び発しん又は水疱を二号と表記する。ただし, 感染症発生動向調査事業実施要綱に基づき, 当該疑似症が二類感染症, 三類感染症, 四類感染症又は五類感染症の患者の症状であることが明らかな場合を除く, とされる。小児科または内科を標榜する医療機関が第一号疑似症定点として, また, 小児科, 内科または皮膚科を標榜する医療機関が第二号疑似症定点として, 保健所管内人口から算定された数に応じて指定され, 本サーベイランスが開始された。今回, 感染症サーベイランスシステム(NESID)においてインターネットに接続され, 定点医療機関が直接システムに件数等の情報を入力するシステムが運用されていた2007(平成19)年11月~2015(平成27)年7月までの届出状況に関してまとめた。

一号疑似症定点からの届出数:全国で累計15,260件の届出がなされた。集計の年齢区分は0歳, 1歳, 2~3歳, 4~5歳, 6~7歳, 8~9歳, 10~14歳, 15~19歳, 20~29歳, 30~39歳, 40~49歳, 50~59歳, 60~69歳, 70~79歳および80歳以上となっている。年齢区分を0~9歳群, 10~59歳群および60歳以上群の3群に分類した場合, 各群の届出数(割合)は0~9歳群5,885件(38.6%), 10~59歳群7,495件(49.1%), 60歳以上群1,880件(12.3%)であった。

年ごとの届出件数は, 2007(平成19)年11件, 2008(平成20)年1,593件, 2009(平成21)年5,126件, 2010(平成22)年1,160件, 2011(平成23)年1,811件, 2012(平成24)年2,257件, 2013(平成25)年1,110件, 2014(平成26)年1,360件, 2015(平成27)年(7月9日まで)832件であり, 平成21年のパンデミックインフルエンザが国内でピークを形成した11月にこの年最大の届出数となった以外は, 例年1月か2月にピークが観察される傾向があった。都道府県別では, 期間中1件以上の届出があった自治体は17都府県で, 自治体ごとの累計届出数は1~6,260件(中央値343件)であった。

二号疑似症定点からの届出数:全国で累計4,266件の届出がなされた。集計の年齢区分は一号と同様であるが, 上記と同様に患者年齢を3群に分類した場合, 0~9歳群3,101件(72.7%), 10~59歳群836件(19.6%), 60歳以上群329件(7.7%)であった。年ごとの届出件数は, 平成19年2件, 平成20年722件, 平成21年529件, 平成22年472件, 平成23年705件, 平成24年527件, 平成25年554件, 平成26年509件および平成27年(7月9日まで)246件であった。届出は夏季にやや増加する傾向にあった。都道府県別では, 期間中1件以上の届出があった自治体は19都道府県で, 自治体ごとの累計届出数は1~3,505件(中央値10件)であった。

一号, 二号に関するこれらの情報の制約として, 各都道府県において疑似症定点に指定された医療機関について全国単位で取りまとめたデータを把握できないため, 指定された疑似症定点の総数や各診療科の内訳は不明であることを考慮する必要がある。

制約や自治体規模が異なることを考慮しても, 一号, 二号それぞれの疑似症定点からの届出数は, ともに都道府県ごとの届出数として大きなばらつきをもって観察されており, 自治体ごとに本サーベイランスの運用状況が異なる可能性が示唆された。平成27年7月10日からは, インターネット回線を通じたシステムの運用が中止された結果, 医療機関から保健所へ届出を行ったのちに, 保健所がNESID上の代替システムに入力を行う届出方法に変更されている。

疑似症のサーベイランスの目的は先に述べた通りである。届け出られる情報を国, 都道府県等において常時監視することにより, 原因不明の感染症を含め, 国民の健康に対する脅威を早期に発見し, 迅速に対応することが可能となる。また, 疑似症のサーベイランスは大規模スポーツ大会やサミット等多数が参加する行事(マスギャザリング)が行われる際に, アウトブレイクなどの異常な事象(イベント)の発生を早期に探知することを目的とするイベントベースサーベイランスとしても有用なツールにもなりうると考えられ, 今後のより有効な活用が期待される。

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