国立感染症研究所

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風疹の海外状況(地域別流行状況、予防接種などの対応)

(IASR Vol. 34 p. 91-92: 2013年4月号)

 

風疹ウイルス流行株の遺伝子型と世界的な分布 
風疹ウイルスの遺伝子型分類(genotyping)は、E1蛋白質の遺伝子解析によって決定されることが世界保健機関(WHO)によって定められている1)。これまでに風疹ウイルスは13の遺伝子型(1a、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1h、1i、1j、2A、2B、2C)が報告されている。2005~2010年に各国で検出された遺伝子型が集計されており、遺伝子型1E、1Gおよび2Bウイルスが世界的に検出されていることが示されている2)。一方、遺伝子型1a、1B、1C、1h、1jおよび2Cのウイルスは特定の地域に限定的に、あるいは散発的に検出されている。遺伝子型1D、1F、1iおよび2A(2Aは中国でワクチンに用いられているBRDII株を除く)ウイルスは2002年以降に検出されておらず、消失したものと考えられる。

WHOの6地域(WPR、EUR、AMR、AFR、EMR およびSEAR)における風疹およびCRS排除への動向と流行状況
The Measles Initiative(米国赤十字、米国CDC、ユニセフ、国連財団、WHOからなる国際パートナーシップ)は、2012年4月にThe Measles and Rubella Initiativeと名称を変更して風疹および先天性風疹症候群(CRS)の対策を積極的に取り組む姿勢を示し、2020年までの世界戦略計画を立てている。この中で2015年末までにWHOの地域ごとに掲げた麻疹、風疹およびCRSの排除目標を達成すること、および2020年末までに少なくとも5つのWHO地域で麻疹および風疹の排除を達成することを目標にあげている。また、風疹の排除の定義として、「適切なサーベイランス体制の下で、ある特定の地域において、土着株による感染が1年間以上存在せず、それに関連したCRS症例が確認されないこと」が提唱されている3)

WPR; Western Pacific Region :日本の属するWPRでは、麻疹排除活動との統合を通じて風疹の制御とCRSの予防を促進させることを目標にしている。WPR予防接種およびワクチンで予防可能疾患に関する技術顧問(TAG)会議は、理想的には2015年までに風疹の制御(人口 100万人当たり10例以下)とCRSの予防(100万出生当たり10例以下)を達成することを提言している。2011年時点で29の国と地域のうち24地域で風疹含有ワクチンが予防接種スケジュールあるいは補足的な予防接種活動に組み込まれている4)。残る5カ国のカンボジア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、ベトナムでは風疹含有ワクチンが導入されておらず、ベトナムでは2011年に非常に大きな流行とそれに伴うCRSの多発が報告された5)(本号6ページ参照)。この流行では遺伝子型2Bウイルスが主要なウイルスであったと考えられている。2011年および2012年に各国と地域で行われた風疹報告数を基にすると6, 7) 、オーストラリア、香港、マカオ、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国では2年連続で人口 100万人当たり10例以下を達成しているが、カンボジア、マレーシア、モンゴル、フィリピン、ベトナム、フィジーではこれに到達していない。また、中国では、2009年に69,821例(人口 100万人当たり52.6例)と、風疹検査診断例は多い状況にある8)。中国では2001年に初めて遺伝子型1Eウイルスが検出されて以降、それまでに優勢であった遺伝子型1Fおよび2Bウイルスに置き換わり、主要な流行株になっている。

AMR; Americas Region:AMR には35カ国が属しており、すべての国で風疹含有ワクチンが予防接種スケジュールに組み込まれている9)。定期接種の導入および積極的な補足的予防接種等の活動により、1999年と2006年を比較すると、症例数は135,947例から 3,005例(98%の減少率)に減少した10) 。しかし、アルゼンチン、ブラジル、チリでは、成人層を対象とした補足的予防接種において、当初は女性のみを対象にしたため、2007年に成人男性を中心とした風疹の大規模流行が発生した。その後、成人男性を含めた補足的予防接種が行われたことで、2009年を最後に地域的な流行も認められていない9, 10)。風疹およびCRS は排除状態であることが報告されており、現在はその維持を検証している10)

EUR; Europe Region:EURでは、2015年までに風疹とCRSの排除達成を目標にしており、全53カ国で風疹含有ワクチンが予防接種スケジュールに組み込まれている9)。また、風疹およびCRSの発生数について、2012年には34カ国からWHOへ報告がなされている11) 。その報告において、多くの国で風疹発生が少ない状態であることが示されている。一方で、ポーランドでは6,259例(人口 100万人当り 163.4例)、ルーマニアでは20,772例(同 970.8例)と非常に大きな流行が認められる国も存在する。

EMR; Eastern Mediterranean Region, SEAR; South-East Asia Region, AFR; African Region:EMRには21カ国が属しており、そのうち15カ国(71%)で風疹含有ワクチンがワクチン接種スケジュールに組み込まれている9)。EMRでは達成目標年は設定されていないが、風疹の排除が目標として掲げられている。SEARには11カ国が属しており、そのうち4カ国(36%)で風疹含有ワクチンがワクチン接種スケジュールに組み込まれている9)。AFRには46カ国が属しており、そのうち2カ国(4%)で風疹含有ワクチンがワクチン接種スケジュールに組み込まれている9)。ワクチンの導入が進んでいないSEAR、AFRでは、風疹が流行していると考えられるが、その実態は不明瞭である。

 

参考文献
1) WHO, WER 80: 126-132, 2005
2) Abernathy ES, et al., J Infect Dis 204 (Suppl 1): S524-532, 2011;
3) WHO, WER 88: 89-100, 2013
4) WPR rubella fact sheet,  http://www.wpro.who.int/mediacentre/factsheets/fs_20120228/en/index.html
5) Tran DN, et al., J Med Virol 84: 705-710, 2012 
6) WHO/WPR, Measles Rubella Weekly Bulletin 7: 1, 2013
7) WHO/WPR, Measles Rubella Weekly Bulletin 7: 2, 2013
8) Zhu Z, et al., J Clin Microbiol 50: 353-363, 2012 
9) WHO, WER 85: 413-424, 2010
10) WHO/PAHO, Plan of Action for the Documentation and Verification of Measles, Rubella, and Congenital Rubella Syndrome Elimination in theRegion of the Americas
11) WHO, Epdemiological Brief 29, Mesales, rubella, and polio update from WHO/Europe

 

国立感染研究所ウイルス第三部 坂田真史 森 嘉生 竹田 誠 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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