国立感染症研究所

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腸管出血性大腸菌O157、O145の混合感染が認められた食中毒事例―栃木県

(IASR Vol. 33 p. 122-123: 2012年5月号)

 

2011年8月、医療機関の給食施設で調理された食事を原因食品、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157、O145を病因物質とする食中毒が発生した。その概要について報告する。

8月4日、医療機関から管轄保健所に併設している介護老人保健施設(老健施設)入所者2名のEHEC(血清型O157、Vero毒素VT1&2 )感染症の発生届があった。このため、保健所は同施設におけるEHEC感染症の集団発生を疑い調査を開始した。

調査の結果、医療機関の給食施設は併設する老健施設にも給食を提供する施設であり、7月28日に当該給食施設を利用した患者、入所者、および職員のうち15名が下痢(血便)、腹痛、嘔吐、発熱などの食中毒症状を呈していた。発症者の共通食は当該給食施設で提供された食事のみ、発症者の行動には、当該給食施設以外に共通するものがなく、発症状況に共通性が認められた。

細菌学的検査は、発症者便15検体、調理従事者便12検体、検食25検体、原材料食品7検体、および調理器具等のふきとり8検体について実施した。検査の結果、EHEC O157:H7(VT1&2 産生)(以下、EHEC O157とする)が発症者11名、調理従事者1名、および検食1検体(なすと大葉のもみ漬け)から分離され、EHEC O145:H-(VT2 産生)(以下、EHEC O145とする)が、発症者6名、調理従事者1名、および原材料食品(大葉)1検体から分離された。このうち発症者4名(入院患者1名、医療機関職員2名、老健施設入所者1名)からは、EHEC O157とEHEC O145がともに分離された。ふきとり検体からはEHECは分離されなかった。EHEC O157が分離された老健施設入所者1名は、溶血性尿毒症症候群を発症したが、回復を確認した。

無症状病原体保有者からの二次感染の可能性を疑い、医療機関、および老健施設職員 234名(発症者と調理従事者を除く)と、発症者の家族等、無症状の接触者25名の便について細菌学的検査を実施した。検査の結果、EHEC O157が医療機関職員8名と発症者の家族1名から分離され、EHEC O145が医療機関職員2名から分離された。その後、新たな患者発生を認めなかったことから、本事例は終息したものと考えられた。

発症者、調理従事者、無症状病原体保有者、検食、原料食品から分離されたEHEC O157 22株とEHEC O145 10株について、それぞれパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した。それぞれすべての株が2バンド以内の違いであり(図1図2)、同一由来株であることが推定された。

以上のことから、本件は原因食品が「なすと大葉のもみ漬け」、原因物質がEHEC O157、O145とする食中毒事件と断定したが、原材料の「大葉」からEHEC O145が検出され、「なすと大葉のもみ漬け」からはEHEC O157しか検出されなかったことなどから、感染源、感染経路の究明には至らなかった。

栃木県内では、EHECによる集団発生は毎年発生しているが、EHEC O145による集団発生報告は県内では初めてで、さらにEHEC O157とEHEC O145との混合感染が認められた稀な事例であったと考えられる。

謝辞:本事例を報告するに当たり、菌株を分与していただきました医療機関各位に御礼申し上げます。

栃木県保健環境センター 内藤秀樹 舩渡川圭次
栃木県県西健康福祉センター
人見美子 石川信一 豊田史郎(現県東健康福祉センター) 永井伴幸 関口明子(現動物愛護指導センター) 曽部 保(現今市健康福祉センター)
栃木県保健福祉部生活衛生課 大内忠信

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