国立感染症研究所

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愛知県で2013/14シーズンに初めて分離されたB型インフルエンザウイルス(Victoria系統)の性状

(IASR Vol. 34 p. 376-377: 2013年12月号)

 

2013年10月15日に上気道炎、下気道炎、発疹より麻疹を疑われた6カ月児より採取された咽頭ぬぐい液検体から、B型インフルエンザウイルスが分離された。患者は10月5日に発熱、10月8日にベトナムより入国。当研究所による麻疹・風疹およびパルボウイルスB19遺伝子検査は陰性、咽頭ぬぐい液検体をMDCK細胞、HeLa細胞、RD-18S細胞およびVero細胞に接種したところ、MDCK細胞において接種後4日目に細胞変性効果が認められた。このウイルス培養上清液に対して0.5%ニワトリ赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、HA価は128倍を示した。そこで、国立感染症研究所より配布されている2013/14シーズン用インフルエンザウイルス同定キットにて赤血球凝集抑制(HI)試験による型別同定を行った。その結果、分離株はB/Victoria系統の抗B/Brisbane/60/2008血清(ホモ価640)に対してHI価1,280を示し、抗A/California/7/2009血清(同1,280)、抗A/Texas/50/2012血清(同2,560)、B/Yamagata系統の抗B/Massachusetts/02/2012血清(同640)に対してはHI価<10を示したため、B型インフルエンザウイルス(Victoria系統)と同定された。また、咽頭ぬぐい液検体より抽出したRNAにて実施したリアルタイムRT-PCR遺伝子検査においてもB型遺伝子を検出した。

HA、NA遺伝子解析
分離されたB/Aichi(愛知)/62/2013株はHA遺伝子(1,041塩基)系統樹解析により2011/12シーズンワクチン株(B/Brisbane/60/2008)と同じクレード1aに分類され、GISAID(The Global Initiative on Sharing All Influenza Data)に登録されている2013年6~9月の分離株(10月28日確認)と同じ分岐に属していた()。しかし、BLAST検索で100%の相同性を有する株は認められなかった。また、当研究所で2012/13シーズンの1~5月に分離された6株も同じ分岐に属していた()。NA遺伝子の系統樹解析ではB/Brisbane/60/2008株と比べて3アミノ酸(S295R、N340D、E358K)が異なる2011/12および2012/13シーズン分離株(当研究所)由来の分岐に属していた。また、既知のノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性変異は検出されなかった。

2013/14シーズンに入り、県内195定点医療機関からのインフルエンザ患者報告は、11月第1週現在10例前後(定点あたり0.05)である1)。今回の事例は発熱から検体採取までに10日(入国後7日)を要し、発疹が認められた乳児症例であるため、B型インフルエンザ感染時期は国外輸入症例若しくは入国後の何れも可能性が考えられる。今シーズン国内でのB型インフルエンザウイルスの分離・検出状況は11月11日現在2)Victoria系統4株、山形系統4株、系統不明1株である。和歌山県においては山形系統による集団発生が認められており3)、今後どちらの系統が流行するのか発生動向に注意する必要がある。

 

参考文献
1) 愛知県感染症情報センター 愛知県感染症情報 (2013年11月11日確認)   
     http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/2f/201344.pdf
2) IASR 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数 (2013年11月11日確認)   
     https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf
3) IASR 34: 375-376, 2013   
     http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/4085-pr4062.html

 

愛知県衛生研究所   
    安井善宏 尾内彩乃 中村範子 小林慎一 山下照夫 皆川洋子

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和歌山市における風疹の流行状況(2013年第1週~第35週)について

(IASR Vol. 34 p. 377-378: 2013年12月号)

 

はじめに: 2013年は全国的に風疹の流行がみられ、2013年8月現在で風疹患者の報告数が13,937件となっている1)。和歌山市では、全国的な風疹患者の増加に伴い積極的に遺伝子検査を実施した。2013年第1週~第35週までに市内各地から検体が搬入され、医療機関30施設の患者から風疹ウイルスが検出されたことにより、和歌山市内の風疹の流行状況が詳細に把握できたので報告する。

検査方法:麻疹・風疹疑い患者26人、風疹疑い患者110人の計136人について、咽頭ぬぐい液134検体、血液43検体、尿2検体の合計179検体が搬入された。遺伝子検査は、風疹検出マニュアル第2版2)に準じて、NS領域のNested PCRを実施した。ウイルス分離は、遺伝子検査陽性患者の咽頭ぬぐい液または血液をVero E6細胞に接種し、35℃で1週間程度培養した。さらに、分離株を用いてE1領域のNested PCRを実施し、ダイレクトシークエンス法により739bpの塩基配列を決定し、NJ法により系統樹解析を行った。

検査結果:患者136人中83人から風疹ウイルスの遺伝子が検出された。検体別検出数は、咽頭ぬぐい液82検体、血液26検体であり、尿からは検出されなかった。また、咽頭ぬぐい液と血液の両方を採取した患者35人中31人から風疹ウイルス遺伝子が検出されたが、そのうち両検体から検出されたのは25人、咽頭ぬぐい液からのみ検出されたのは6人であった。尿を採取した患者2人は、同時に咽頭ぬぐい液も採取したが、両検体とも風疹ウイルス遺伝子は検出されなかった。ウイルス分離については、遺伝子検査陽性患者83人すべてから風疹ウイルスが分離された。風疹ウイルスの週別検出状況は、第8週、第11週、第12週、第15週に1人から検出され、第16週から増加し、第21週には17人とピークとなった。以降、ウイルスの検出数は減少し、第32週からは検出されなくなった(図1)。年齢別では、20~29歳までが28人と最も多く、次に30~39歳までが23人と多かった(図2)。男女別では、83人中57人(69%)が男性、26人(31%)が女性であり、男性からの検出数が女性の約2倍であった。分離株の系統樹解析の結果、分離株83株中80株が2B型、3株が1E型であった(図3)。

考 察: 2013年7月現在の全国の風疹ウイルス検出・分離状況3)は、2013年第1週から検出され始め、ピークは第21週で、その後は減少している。男女別と年齢別では、男性が女性より多く、男性では30~39歳、女性では20~29歳で最も多く検出されている。これら全国の流行分布と和歌山市の流行分布はほぼ一致していることが分かった。また、市内の30代と40代において、男性からの検出数が圧倒的に多いのは、同年代の女性と比較すると抗体保有率が低くなっている感染症流行予測調査(風疹HI抗体保有状況)4)のデータを反映していると考えられる。遺伝子検査では、咽頭ぬぐい液と血液の2検体を採取している遺伝子検査陽性患者31人中6人の血液から風疹ウイルス遺伝子が検出できず、検査材料としては、咽頭ぬぐい液の方が血液より有効であると思われた。系統樹解析の結果、市内流行の主流であった2B型は、80株中79株がRVs/Aichi.JPN/18.13/2と近縁の株で、もう1株はRVi/Chiba.JPN/48.12に近縁の株であり、2つのサブクラスターを形成した。第11週、第20週、第28週に散発的に発生した1E型3株は、RVs/Aichi.JPN/18.13/1と近縁の株であった。ワクチン接種歴がある5人から風疹ウイルスが検出されたが、これら5人の分離株の遺伝子型は2B型を示した。

おわりに:和歌山市内の第1週~第35週までの風疹の流行状況は、積極的な検査の実施と市内全域にわたる多くの医療機関から検体が搬入されたことにより詳細に把握することができた。

2004年と2012年の風疹患者の増加後、通常より多くの先天性風疹症候群(CRS)患者が確認されており、2013年8月現在では、既に2012年を上回るCRS患者数が報告されている5)。今回の流行では、特に20代と30代の世代に風疹患者が多いことから、CRS患者の増加が危惧されている。和歌山市においては、まだCRS患者の報告はないが、引き続き風疹検査を積極的に実施し、風疹患者およびCRS患者の発生状況について注視していきたい。

 

参考文献
1) IDWR 速報グラフ 累計報告数2013年第35週(2013年9月4日現在)
http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/2131-rubella-doko.html (Accessed 2013/9/24)
2) 病原体検出マニュアル 風疹 第二版
3) IASR 風疹ウイルス分離・検出速報(2013年7月4日現在) 
http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-rubella.html (Accessed 2013/9/24)
4) IASR 34: 105-107, 2013
5) IDWR 先天性風しん症候群(CRS)の報告(2013年9月18日現在)  
http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/3975-rubella-crs-20130918.html

 

和歌山市衛生研究所
  江川秀信 金澤祐子 太田裕元 廣岡真理子 西山貴士 森野吉晴  
和歌山市保健所総務企画課健康危機管理班
  丹生哲哉 藤井広子 岩田ゆかり

 国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体(ノロウイルスをはじめ、サポウイルス、ロタウイルス、アストロウイルスなど)の情報が含まれる。

図1.週別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告数、2013/14シーズン
図2.都道府県別ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス検出報告状況、2013/14シーズン

*2013/14シーズンは2013年第36週/9月~2014年第35週/8月(検体採取週)。

 

データは現在週および過去の週に遡って追加報告が見込まれる。

 

 

*参考:週別Astrovirus検出報告数、2010/11-2013/14シーズン

 

 

 

 

 

(参考)ノロウイルス関連情報(国立医薬品食品衛生研究所)

 

 


 

 

 

ノロウイルス等検出状況 2012/13シーズン (2013年10月24日現在報告数)

 

ノロウイルス等検出状況 2011/12シーズン (2012年11月8日現在報告数)

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

 

 

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<速報>潜在的な疫学リンクが疑われたD8型ウイルスによる麻疹広域散発事例

(掲載日 2013/12/18)

 

麻疹は国内で以前循環していたD5株が2010年5月を最後に検出されておらず、土着株がない状況が続いている1)。現在報告症例の多くは散発例であるが、時にアウトブレイクも見受けられる2, 3)。2013年7~8月にかけて、潜在的な疫学リンクが疑われたD8型ウイルスによる麻疹症例が、複数の自治体において発生したので、その概要について報告する。

2013年8月22日に川崎市健康安全研究所より、8月6日に麻疹を発症した川崎市の36歳男性症例について国立感染症研究所(感染研)感染症疫学センターに情報提供があった。検出されたウイルスの遺伝子型はD8であった。その後、7月1日以降に遺伝子型決定部位450塩基配列が完全に一致するD8型ウイルス株による麻疹症例が東京都に1例、藤沢市に2例、静岡市に1例あったことが感染症発生動向調査に報告されたが、藤沢市の兄弟例以外の疫学的リンクについては不明であった。また、同時期に台湾衛生福利部疾病管制署(台湾CDC)から感染症疫学センターに、台湾で土着株ではないD8症例が発生しているという情報が入った。複数の自治体でD8症例が報告されていることから、事例全体を把握することが重要と考え、厚生労働省(厚労省)は自治体間の情報共有の必要性について、関係自治体(東京都、神奈川県、川崎市、藤沢市、静岡市)に連絡を行い、10月10日には感染研を交えた電話会議にて疫学調査に必要な情報の共有がなされた。

本事例では症例の定義を、2013年7月1日~9月24日までに感染症発生動向調査に報告された麻疹症例のうち、川崎市から最初に報告された症例と遺伝子型決定部位の450塩基配列がすべて同一の麻疹ウイルスに感染した者とした。遺伝子配列ならびに症例の情報は各自治体および台湾CDCから得た。感染研ウイルス第三部において収集されたD8型ウイルスの遺伝子配列の系統樹解析を行った。

2013年7月1日~9月24日までに感染症発生動向調査で関連4自治体から報告された麻疹症例は20例であった(図1)。そのうち10月10日現在、症例定義を満たしたものは4自治体5症例確認され、年齢は中央値27歳(範囲21~36歳)、性別は男性4例であった。麻疹含有ワクチンの接種歴なしが3例、不明が2例だった。遺伝子型がD8と判明している麻疹は8月31日発症例以降の報告は認めず、国内での感染伝播は終息しているものと考えられた。8月1日に発症した東京都の症例と8月6日に発症した川崎市の症例の台湾訪問(それぞれ7月20~26日、7月21~26日の期間)以外に、麻疹発症から21日前までの海外渡航歴はなかった。また、藤沢市の2症例は兄弟であり、潜伏期間からも家族内感染と考えられたが、その他の症例間で明らかな疫学的リンクは認められなかった。7月29日に発症した静岡市の症例(27歳男)は、7月下旬に発熱・発疹を呈し入院した60代女性と接点があり、その60代女性の娘が7月上旬にスペイン滞在した後、台湾で発熱して体調を崩し、帰国後自宅療養していたとの情報が得られた。今回検出されたD8型ウイルスの遺伝子型決定部位(450塩基)の塩基配列はすべて同一の配列であった(図2)。この配列をもつウイルスは2011~2013年に主に西欧(スペインを含む)、北欧、東欧、北米等で流行している株であった4)。また、台湾CDCとの情報交換により、第31週に台湾で検出された2症例のウイルスとも同一であることが判明した(図1)。台湾の2症例は7月18日と7月29日に発症しており、後者は川崎市および東京都の症例が利用した台湾の桃園空港関係者であった。一方、遺伝子解析において今回検出されたウイルスは、2009~12年に日本で検出されたD8型ウイルスとは異なる配列であった(図3)。

本事例では4自治体から5例の麻疹D8症例が確認され、一部に台湾との疫学リンクを認めた。ウイルス株は全遺伝子が解析されたわけではないが、遺伝子型決定部位が同一配列であったこと、過去の輸入症例とは異なるウイルス株であること等から、同一のウイルス株が広がった可能性が否定できないと考えられた。また、ウイルス株の確認ができていない症例の中に疫学リンクのある症例が存在していた可能性があると考えられた。今回のように複数の自治体にまたがり症例が確認される事例では、自治体の枠を越えてウイルス株や疫学情報を共有することが重要であるが、各自治体の活動には限度がある。麻しん排除に向けて、各自治体から得られた情報を厚労省および感染研が主体となり収集し、対策を行っていく枠組みが必要と考える。また、潜在的な疫学リンクを明らかにするために、特定感染症予防指針に準じ、麻疹症例に対するウイルス遺伝子検査の施行および遺伝子配列の解析をより一層推進していく必要がある。

貴重な情報をご提供いただいた台湾CDCのFu-Tien Lin先生、Wen-Yueh Cheng先生、Peng-Yuan Chen先生に感謝致します。

 

参考文献
1) IASR 33: 27-29, 2012
2) IASR 33, 31-32: 2012
3) IASR 33: 32-33, 2012
4)Knol M, et al., Euro Surveill. 2013; 18(36):pii=20580

 

国立感染症研究所感染症疫学センター  山岸拓也 伊東宏明 八幡裕一郎 中島一敏 松井珠乃 
         高橋琢理 木下一美  砂川富正 奥野英雄 多屋馨子 大石和徳
同ウイルス第三部 駒瀬勝啓
川崎市健康安全研究所  三崎貴子 丸山 絢 大嶋孝弘 清水英明 岩瀬耕一 岡部信彦
         同健康安全部 小泉祐子 平岡真理子 瀬戸成子
         同高津保健福祉センター 杉本徳子 荷見奈緒美 熊谷行広 大塚吾郎 
東京都健康安全研究センター 杉下由行
神奈川県感染症情報センター 甲賀健史
         同衛生研究所微生物部 鈴木理恵子
藤沢市保健所 阿南弥生子 舟久保麻理子 弘光明子 坂本 洋
静岡市保健所 阿部勇治
厚生労働省健康局結核感染症課 氏家無限

国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる(参考図)。
国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局

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インフルエンザ抗体保有状況 -2013年速報第2報- (2013年12月13日現在)

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は,毎年,インフルエンザの本格的な流行が始まる前に,インフルエンザに対する国民の抗体保有状況(免疫状況)を把握し,抗体保有率が低い年齢層に対するワクチン接種の注意喚起ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的として実施している。
 わが国で使われているインフルエンザワクチン(3価ワクチン)は,A(H1N1)亜型,A(H3N2)亜型,B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスがワクチン株として用いられているが,インフルエンザ感受性調査では,これら3つのワクチン株に加え,ワクチンに用いられなかった別系統のB型インフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行っている。
 本速報では,2013年度の調査によるインフルエンザに対する年齢群別抗体保有状況について掲載する。

1. 調査対象および方法
 2013年度の調査は,25都道府県から各198名,合計4,950名を対象として実施された。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は,健常者から採取された血液(血清)を用いて,調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。採血時期は原則として2013年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また,HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり,このうちa)~c)は今シーズン(2013/14シーズン)のワクチン株,d)はワクチン株と別系統のB型インフルエンザウイルスである。
a) A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
b) A/Texas(テキサス)/50/2012 [A(H3N2)亜型]
c) B/Massachusetts(マサチューセッツ)/02/2012 [B型(山形系統)]
d) B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]

2. 調査結果
 2013年12月13日現在,北海道,山形県,福島県,栃木県,千葉県,東京都,神奈川県,新潟県,富山県,石川県,福井県,長野県,静岡県,三重県,京都府,山口県,愛媛県,熊本県,宮崎県の19都道府県から合計4,910名の対象者についての結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は,0-4歳群:674名,5-9歳群:406名,10-14歳群:373名,15-19歳群:369名,20-24歳群:307名,25-29歳群:392名,30-34歳群:366名,35-39歳群:389名,40-44歳群:371名,45-49歳群:309名,50-54歳群:327名,55-59歳群:280名,60-64歳群:210名,65-69歳群:80名,70歳以上群:57名であった。
 なお,本速報における抗体保有率とは,感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率を示し,抗体保有率が60%以上を「高い」,40%以上60%未満を「比較的高い」,25%以上40%未満を「中程度」,10%以上25%未満を「比較的低い」,5%以上10%未満を「低い」,5%未満を「きわめて低い」と表す。

【年齢群別抗体保有状況】
A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本ウイルスは2009年に世界的大流行(パンデミック)を起こしたインフルエンザウイルスである。2009/10シーズンは本ウイルスを用いた単価ワクチンが製造され,従来の3価ワクチンとは別に接種が行われたが,2010/11シーズン以降は4シーズン続けてワクチン株の1つとして選定されている。
 本ウイルスに対する抗体保有率は,10~24歳の各年齢群で60%以上と高く,特に15-19歳群では80%以上を示した。また,5-9歳群および25~54歳のほとんどの年齢群では比較的高かったが,それ以外の年齢群は中程度以下の抗体保有率であり,特に0-4歳群では25%未満であった。全体では47%と調査株中2番目に高かった。

A/Texas(テキサス)/50/2012 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本ウイルスは今シーズンのワクチン株の1つとして選定されたウイルスであり,前シーズン(2012/13シーズン)のワクチン株であったA/Victoria(ビクトリア)/361/2011から変更となった。
 本ウイルスに対する全体の抗体保有率は調査株最も高い50%であった。年齢群別の抗体保有率は5~19歳の各年齢群で高く,10-14歳群で最も高かった。また,0-4歳群と60-64歳群では中程度であったが,それ以外の年齢群では比較的高い抗体保有率であった。

B/Massachusetts(マサチューセッツ)/02/2012 [B型(山形系統)]:図2上段
 今シーズンのB型のワクチン株は前シーズンに続き山形系統が選定されたが,本ウイルスは前シーズンのワクチン株であったB/Wisconsin(ウィスコンシン)/1/2010から変更となったウイルスである。
 本ウイルスに対する抗体保有率は,20-24歳群をピークに15~29歳の各年齢群で60%以上と高かった。また,30~54歳の各年齢群では比較的高い抗体保有率であったが,それ以外の年齢群は中程度以下であり,中でも0-4歳群,5-9歳群,65-69歳群は25%未満の抗体保有率であった。全体の抗体保有率は調査株中最も低い41%であった。

B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本ウイルスは2009/10~2011/12シーズンまで3シーズン連続してワクチン株に選ばれたウイルスであり,本年度調査におけるビクトリア系統の代表として用いた。
 本ウイルスに対する抗体保有率は35-39歳群で最も高く,他の調査株における年齢分布の傾向と異なっていた。また,0-4歳群で比較的低かった以外は,ほとんどの年齢群で比較的高い抗体保有率であり,年齢群による差は他の調査株と比較して小さかった。全体の抗体保有率は43%であり,上記ワクチン株に選定された3株とほぼ同等であった。


図1


図2

コメント
 病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況(2013年11月19日現在報告数)によると,今シーズンは2013年第36~45週にA(H1)pdm09亜型16件,A(H3)亜型37件,B型15件(ビクトリア系統7件,山形系統7件,系統不明1件)の報告があり,現時点ではA(H3)亜型の分離・検出報告数が多い1)。また,感染症発生動向調査によるインフルエンザの定点あたり患者報告数は,2013年第48週(11月25日~12月1日)の速報値で0.44であり2),全国的な流行の指標となる1.0に達していないが,本調査で抗体保有率が低かった年齢層においては,本格的な流行シーズンが始まる前にワクチン接種等の予防対策を行うことが望まれる。

1)病原微生物検出情報‐インフルエンザウイルス分離・検出速報 2013/14シーズン
2)感染症発生動向調査‐速報データ2013年第48週

国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザウイルス研究センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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