国立感染症研究所

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野菜サラダを原因食品としたYersinia enterocolitica O8 による食中毒事例―東京都

(IASR Vol. 35 p. 17: 2014年1月号)

 

事例概要:2013年4月25日、某予備校から「管内の寮で4月19日~25日の間、約20名の寮生が発熱、腹痛等の症状を呈しており、3名が入院している」と東京都北区保健所に連絡があった。寮では給食業者が寮生に朝夕の食事を提供していた。直ちに食中毒および感染症の両面から調査を開始した。

調査の結果、寮生92名のうち52名(すべて男性)が発症していた(発症率56.5%)。主な症状は、腹痛、発熱、頭痛、下痢であった。症状別発症者数を表1に、日別発症者数を図1に示した。後述のとおり、原因食品と決定した4月17日夕食の喫食から算定した潜伏時間は、37~175.5時間であった。

発症者および調理従事者の検便を実施したところ、発症者26名中18名、調理従事者11名中2名からYersinia enterocolitica(血清型 O8)が検出された。北区保健所は、5月1日、発症者の共通食が寮の食事に限定されること、症状および潜伏期間が同菌のものと一致することから、寮の食事を原因とする食中毒と判断し、3日間(平成25年5月1日~5月3日)の営業停止処分とした。

原因食品については、検食(4月14日~20日)等を検査したところ、4月17日夕食の野菜サラダ(ポークハムカツの付合せ)から同菌が検出された。野菜サラダを賄いとして喫食した調理従事者2名の検便からも同菌が検出されたこと、また、施設調査から、豚肉を扱った器具を介して二次汚染された可能性が高いことから、野菜サラダを原因食品と決定した。

検査結果:糞便検体は、すべてCIN寒天での直接分離培養で検出した。7名の発症者について糞便中のY. enterocolitica菌数を測定した結果、103~104個/gであった。 

原因食品を特定するために検食73検体、原材料6検体、給茶器の水1検体について検査を実施した。各食品にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え、4℃ 21日間培養後、培養液を対象に、ail 遺伝子(接着と侵入性に関与する病原因子の1つ)をターゲットとしたPCR法でスクリーニング試験を行った。その結果、1検体(野菜サラダ)が陽性となったため、この検体から集中的に菌の分離を試みた。

Y. enterocoliticaが検出された「野菜サラダ」の増菌培養液中には、CIN寒天に発育するYersinia以外の菌が非常に多く、Y. enterocoliticaの分離は非常に困難であった。増菌培養液に等量の0.8%KOH加生理食塩水を加え10秒間混和後に平板へ塗抹するアルカリ処理法は非常に有効であり、CIN寒天上に発育した集落から3集落を調べた結果、そのすべてがY. enterocoliticaであった。さらに、Y. enterocolitica O8群抗体を感作させた免疫磁気ビーズを作製し、培養液から集菌後にCIN寒天へ塗抹分離したところ、ほぼ純培養状にY. enterocoliticaの発育が認められ、釣菌した10集落すべてがY. enterocolitica O8であった。

今回の検査では、培養液から遺伝子検査でスクリーニング試験を行い、陽性であった検体に集中して目的菌の分離を行うことで、効率の良い検査を実施することができた。また、培養液中に夾雑菌が多い場合は、アルカリ処理や免疫磁気ビーズ法を用いた集菌法が非常に効果的であった。しかし、食品の増菌培養に3週間、菌の分離・同定を含めると約1カ月を要したことから、迅速な検査を実施するためには、さらに検討が必要であると考えられた。

 

東京都北区保健所 
  大地貴之 木幡幸恵 鈴木美智子 小澤めぐみ 福田智裕     
東京都健康安全研究センター
  小西典子 石塚理恵 横山敬子 齊木 大 赤瀬 悟 門間千枝 

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鹿児島県川薩保健所管内における風しんの流行状況および対策

(IASR Vol. 35 p. 17-19: 2014年1月号)

 

はじめに
2013(平成25)年5月15日の時点における鹿児島県の人口100万人当たり風しん患者の累積報告数は103であり、都道府県別では東京都(155)、大阪府(136)に次いで全国3番目であった。また、鹿児島県内においては川薩保健所管内からの報告が約90%を占めたことから、当保健所は国立感染症研究所とともに管内の風しん流行の全体像の把握、先天性風疹症候群(CRS)対策の検討などを目的に5月30日から共同で以下の実地疫学調査を実施した。

全体像の把握
方法は感染症発生動向調査(NESID)の情報に加えて、当保健所で作成した患者調査票、管内市町・教育事務所・事業所から得られた情報を利用し、管内の流行の全体像を把握した。症例定義はNESIDの症例定義を用いた。

管内の風しん発病週別の報告数は第8週以降増加傾向で推移し、第24週がピーク(42例)であった(図1)。10月2日現在の累積報告数は337例で、第27週以降は10例未満の報告数で減少傾向を示し、第37週以降の発生報告はない。性別は男性が269例(80%)で、そのうち男性の20~40代は212例(63%)であった(図2)。3主徴(発疹、発熱、リンパ節腫脹)が揃って報告された症例は66%で、99%が発疹を呈していた。

337症例のうち検査診断例が195例(58%)で、そのうちPCR確定例が4例であった。流行中期に3人の咽頭ぬぐい液等を採取し、風しんウイルスの遺伝子型の検査を鹿児島県環境保健センターで実施した。そのうち2例が2Bで、2013年の全国的な主流行株と同じであった。

風しん含有ワクチン接種歴は246例(73%)が不明、79例(23%)が無し、1回接種が9例、2回接種が3例であった。学校での集団発生は無かった。

事業所・学校等の所属が判明した141例のうち、医療機関に属する者が6例、その他事業所に属する者が124例(88%)であった。

B事業所内での感染伝播
風しん流行初期に、NESIDに症例26例が長期にわたり報告されたB事業所において、職員への質問紙調査(660人配布、回収率99%)および症例へのインタビュー(17人)を行った。

質問紙調査における症例定義は、診断例(医療機関で風しんと診断されたと回答した者)と、疑い例(医療機関での風しんの診断はされていないが、自己申告で全身性の発疹、または皮膚の発赤がありかつリンパ節腫脹、または発熱の症状を満たしたと回答した者)に分類した。本調査において探知されたB事業所の症例は43例で、そのうち診断例が36例、疑い例が7例であった。B事業所関連の感染伝播の機会は、課内、喫煙所、会議など複数であったことが示唆された。

3月に当保健所は医師会へ風しん流行の周知と風しんの発生届出の徹底を依頼し、B事業所へ風しん流行の注意喚起、予防接種勧奨等の助言を行った。4月にB事業所から再度相談があり、相談に対し当保健所は、職員に対し風しん流行に関する注意喚起と病休取得を助言した。発病から病休取得までの期間の中央値は、3月までが1日で、4月以降が0日であり、4月以降の病休取得までの期間が短縮していた。また、発病日に病休を取得した者は、3月までが29%(5/17)と比べ、4月以降が58%(14/24)で、4月以降の病休取得率が高くなっていた。

症例のインタビューで、ワクチン接種助成を受けなかった理由として、接種の自己負担費用や時間確保が問題点として挙げられた。

CRS対策の検討
流行を探知して以降、当保健所は管内の産婦人科医療機関を訪問し、妊婦の同居家族への情報提供と産褥期のワクチン接種勧奨を依頼、県政広報テレビでCRS予防におけるワクチン接種の重要性を説明する等の対応をとった。また、管内市町と協議し、CRS予防等を目的に5月以降に市町によるワクチン接種費用助成事業が開始された。管内市町の母子保健担当者と協力し、2~4月に母子手帳を取得した妊婦168人に対し、風しん罹患歴、ワクチン接種歴、風しん抗体価等についての質問紙調査を6月中旬に行ったところ、31%において風しんHI抗体価が低かった(32倍未満)。本実地疫学調査の結果を受け、当保健所は管内市町と連携し、風しん抗体価の低い妊婦のフォローアップ等の対策を実施中である。

考 察
管内の流行は、 20~40代の男性が212例で、10月2日時点のNESIDへの累積報告症例数の63%を占め、全国の患者発生報告と同様の性年齢構成であった。この世代は感染症流行予測調査事業において風しん抗体が十分獲得されていないとされている世代であり、この世代への風しんの免疫付与が全国的に重要な対策である。

事業所における風しん患者発生時の対応(特に流行初期)は重要である。事業所は健康管理者と十分な連携を図り、職員の病休の取得、職員への注意喚起を実施することが必要である。また、平時においては事業所の職員が必要なワクチンの接種を受けやすい環境作りが重要であると考えられた。

当保健所は風しん対策のためにNESIDからは得られない事業所名等の情報を医療機関の協力により追加収集をした。追加収集を行った情報は管内の風しん対策に活用された。今後、風しん患者発生時の迅速な対応実施のためにNESIDの発生届出は事業所名等の情報が付加されるような体制整備が必要である。

CRS対策は当保健所管内でのCRSのサーベイランスの強化、CRS児出生時の支援とともに、風しん抗体価の低い妊娠可能年齢女性へのワクチン接種促進が重要である。

謝辞:本事例の調査にご協力いただきました薩摩川内市、さつま町、北薩教育事務所、具志ひふ科クリニック、坂口病院、宮崎小児科、相良医院、久留医院、川内こどもクリニック、済生会川内病院、田島産婦人科、川原産婦人科、河村医院産婦人科内科、医師会の関係者の皆様には調査に関して多大なるご配慮等をいただき、厚く御礼申し上げます。

 

鹿児島県北薩地域振興局保健福祉環境部
  (川薩保健所)
  川上義和 吉國謙一郎 永山広子 揚松龍治    
鹿児島県環境保健センター 濵田結花    
国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP) 牧野友彦
感染症疫学センター 八幡裕一郎 中島一敏 松井珠乃 大石和徳

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エコーウイルス9型による無菌性髄膜炎の地域流行、2013年―東京都

(IASR Vol. 35 p. 19-20: 2014年1月号)

 

2013年6~9月にかけて東京都特別区の1地域において小児を中心にエコーウイルス9型による無菌性髄膜炎の流行を認めたので報告する。2013年7月11日、無菌性髄膜炎でA区M地域在住の小児5名が入院していると医療機関から行政機関に情報提供があった。都内A区T病院小児科での過去5年間の無菌性髄膜炎入院患者は毎月5人以下であったが、2013年7月の入院患者数は17日時点で13人となり、アウトブレイクが明らかとなった。東京都健康安全研究センターでは、関連する保健所、医療機関と連携し、原因究明のための検体検査と全体像把握のための記述疫学を行った。

(1) ウイルス検査
2013年7月16日~8月21日の期間に無菌性髄膜炎患者13人の髄液検体(13検体)が東京都健康安全研究センターに搬入された。住所地別の内訳は、A区在住7人、K区在住5人、他区在住1人であった。無菌性髄膜炎の都内での病原ウイルス検出状況を鑑み、エンテロウイルス属の検索を実施した。検査方法は、国立感染症研究所の無菌性髄膜炎病原体検出マニュアルに記載されている方法に準拠した。遺伝子検査においては、RT-PCR法によりVP1領域の遺伝子を増幅し遺伝子検出を試みた。この結果、13件中12件でエンテロウイルス属が陽性となった。検出された遺伝子の塩基配列から型別を決定し、結果はエコーウイルス9型10件、型別不明2件であった。エコーウイルス9型10件の塩基配列を検討したところ、99%以上の相同性が確認された。培養細胞による分離検査においては、Vero E6、RD-18S細胞を用いて実施し、2件でウイルスが分離された。ウイルス分離後、血清を用いて中和試験を行い、いずれもエコーウイルス9型と同定された。

(2) 記述疫学
症例定義は2013年6月8日以降に発症し、A区T病院小児科、そして周辺6カ所の病院小児科に無菌性髄膜炎と診断され入院した者とした。遺伝子検査で髄液からエコーウイルス9型が検出された者または血液検査でエコーウイルス9型抗体価が有意上昇した者を「確定例」、確定例と疫学的リンクのある者を「可能性例」、確定例と可能性例以外で、A区に在住する者またはA区と隣接する5区に在住する者を「疑い例」(ただし、エコーウイルス9型以外のウイルスによるものと診断された症例は除く)とした。

症例数は計85人で、確定例33人、可能性例15人、疑い例37人であった。症例は6月20日~9月18日の期間に発症し、発症のピークは7月12日であった。9月19日以降最大潜伏期間1)の2倍となる12日間新たな発症がみられなかったことから9月30日に終息と判断した(図1)。性別は、男性48人(男女比1.3:1)、年齢は11か月~13歳(中央値5歳)であった(図2)。入院日数は3~11日(平均7.1日)で、髄膜脳炎症例が1人あったが、後遺症例や死亡例はなかった。

集団生活の所属内訳は、保育所32人、幼稚園12人、小学校31人、中学校5人、不明3人、未所属2人であった。居住地別では、A区66人(うちM地域22人)、K区14人、他区3人であった。6月20日~7月11日までの発症者の居住地はA区M地域であり、流行はA区M地域で始まった。その後、K区のK幼稚園で流行が起こったが、7月11日発症の確定例(PCR陽性)はM地域居住かつK幼稚園所属であったことから、M地域との疫学的リンクが確認できた。7月25日以降M地域以外のA区の複数の保育所を中心に流行が続いた。3人以上の発症が確認された施設の内訳は、A区M地域で保育所1カ所、小学校2カ所、中学校の野球部1カ所、M地域を除くA区で保育所3カ所、K区で幼稚園1カ所、小学校1カ所であった。

家族内発症は16家族で確認された(兄弟姉妹間13家族、父または母への感染4家族:重複あり)。家族内感染から施設への持ち込み、またその逆の施設内感染から家庭への持ち込みが確認された。

(3) 考 察
家庭内、保育所を主とした施設で発生がみられ、これらの場所での感染者との濃厚接触が感染の要因と考えられた。流行が長期化した原因についてはいくつか考えられた。まず、家族内感染→施設への持込み→施設内感染→家庭への持込みという感染の連鎖を断ち切ることが困難であった。不顕性感染者も感染源となりうるため、その者達から感染が広がった可能性があった。エンテロウイルス属は、感染力が強いばかりでなく、咽頭からは発症後1週間程度、糞便中には数週間ウイルスが排泄されるため曝露を受ける期間が長く、さらに消毒薬に抵抗性が強いという特性もあった。

K区の幼稚園では、7月22日以降の夏季保育を中止し、以降閉園措置を取った。この対応は非常に効果的であり、早期の終息に至った。

しかし、保育所では休園することが難しく、登園の自粛を保護者に依頼することが精一杯であった。さらに、延長保育の場合は人手の問題から園児がクラスを越えて集められる状況となり、クラスを越えて感染が拡大する要因となった可能性が考えられる。当然のことながら、保育時間が長くなれば食事や排泄の回数は増え、感染のリスクも増加する。保育所でのエンテロウイルス感染症対策の難しさが、本事例の流行の背景と考えられた。

感染症のアウトブレイクがみられた場合、感染伝播についてリスク因子を明らかにすることは重要であるが、実際には非発症者も含めた調査を実施することは難しい。調査を実施できる環境づくりを進めていく必要があるものと考えられる。

今回の地域流行では基幹定点サーベイランスによるアウトブレイク探知はできなかった。都内には基幹定点病院が25カ所あるが、この地域に基幹定点病院は設置されていなかった。現状では発生動向の傾向を明らかにすることはできるが、無菌性髄膜炎のアウトブレイクの探知には基幹定点では限界があり、これは今後の課題として挙げられた。今回のアウトブレイクは、医療機関が異常を探知したことが発見のきっかけとなった。感染症対策には、普段から医療機関と行政機関が顔の見える関係を構築しておくことが重要と感じられた。

 

参考文献
1)小児感染症学 改訂第2版, 編集:岡部信彦, 診断と治療社, pp404-409, 2011

 

東京都健康安全研究センター  
 杉下由行 早田紀子 秋場哲哉 長谷川道弥   林 志直 甲斐明美 住友眞佐美
東京女子医科大学東医療センター小児科  
 鈴木葉子 志田洋子
日本医科大学小児科 板橋寿和
国立感染症研究所感染症疫学センター 多屋馨子

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The Topic of This Month Vol.35 No.1(No.407)

E型肝炎 2005~2013年 

(IASR Vol. 35 p. 1-2: 2014年1月号)

 

E型肝炎は、ヘペウイルス科(Hepeviridae )ヘペウイルス属(Hepevirus )のE型肝炎ウイルス(HEV)の感染による急性肝炎である。潜伏期は平均6週間といわれている。臨床症状は発熱、全身倦怠感、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛等の消化器症状を伴い、黄疸が認められるが、不顕性感染もある。臨床症状はA型肝炎との共通点が多い。致死率(1~2%)はA型肝炎より10倍ほど高い。従来は慢性化しないとされてきたが、免疫不全状態にある患者のE型肝炎感染が慢性感染を引き起こすことがある(本号13ページ)。感染経路は、いわゆる途上国では患者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主で、常時散発的に発生しており、時に飲料水を介する大規模集団発生が報告されている。一方、日本をはじめ世界各地で、E型肝炎は動物由来感染症(本号4ページ)として注目されている。

HEVの血清型は1つと考えられ、遺伝型は現在4つ(G1~G4)が知られている。途上国でヒトの地域流行を起こすウイルスは主にG1である。先進国では主にG3とG4の散発的な報告があるが、大規模集団発生の報告はない。またG3およびG4は、ブタやイノシシにも感染することが明らかになっている。

わが国ではE型肝炎は、1999年4月から感染症法に基づく全数把握の4類感染症「急性ウイルス性肝炎」として全医師に診断後7日以内の届出が義務付けられた。その後2003年11月の同法改正に伴い、「E型肝炎」として独立した4類感染症となり、診断後直ちに届出が必要な疾患となった(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-01.html)。

経時的発生状況:感染症発生動向調査において2005年1月~2013年11月にE型肝炎と届出された患者は626例であった(2013年11月27日現在、表1)。2005~2011年は年間42~71例の報告であったが、2012年以降は年間100例を超えている(図1)。国内で感染したと推定された患者(国内例)の割合は2005~2008年には71~79%であったが、2009年以降は86~94%に増加している(図1)。

性別年齢分布:男性502例(推定感染地:国内425例、国外68例、不明9例)、女性124例(国内107例、国外13例、不明4例)と、国内例、国外例とも圧倒的に男性が多い(IASR 26: 261-262, 2005)。国内例は男女ともに中高年が多いのに対し、国外例は幅広い年齢から報告されている(図2)。

診断検査法と遺伝子型(本号3ページ):確定診断した検査法は、2005~2013年はRT-PCR法による遺伝子検出が626例中303例(48%)、ELISA法によるIgM抗体検出が228例(36%)、IgA抗体検出が171例(27%)であった(重複を含む)(表1)。2011年10月にE型肝炎のIgA抗体検出キットが保険適用となり、2012年以降IgAによる診断が大きく増加している。2013年に感染症発生動向調査の届出基準の検査方法にIgAが追加された。

遺伝子型が報告された86例の内訳は、G1が2例(国内1例、国外1例)、G3が39例(国内36例、不明3例)、G4が45例(国内40例、国外5例)で、G2の報告はなかった。

推定感染地:国内532例について都道府県別報告状況を図3に示す。2005年~2013年11月までに42都道府県から報告されている。北海道では毎年報告があり(本号7ページ)、国内例の34%と最も多く、次いで東京都からの報告が多い(14%)。国外81例の主な推定感染地はアジアで、中国が最も多く(42%)、インド(17%)、ネパール(9.9%)と続く(表2)。

推定された感染経路: 2005年~2013年11月に報告された626例のうち、推定感染経路の記載があった国内250例中、肉類の喫食が大部分であった。ブタ(肉やレバーを含む)が88例(35%)、イノシシ60例(24%)、シカ33例(13%)、ウマ10例(4.0%)、貝(牡蠣など)11例(4.4%)などで、その他に動物種不明の肉(生肉、焼肉など)あるいはレバーがそれぞれ37例(15%)、24例(9.6%)であった(重複を含む)。それ以外に、動物の調理・解体・処理などが感染原因と推定されたものが4例あった。国外17例中では、生水・井戸水などの飲料水6例(35%)、ブタあるいは動物種不明の肉の喫食が各4例(24%)記載されていた。

動物でのHEV感染状況:ブタのHEV感染が世界各地で報告されている。日本国内の調査でも2~3カ月齢のブタの糞便からHEV遺伝子が高率に検出され、出荷時のブタ(6カ月齢)の抗体保有率は90%以上であった。HEV遺伝子は、出荷されているブタレバーからも検出されていた(本号8ページ)。また、日本の野生イノシシの抗体保有率(34%)はブタより低いが、HEVが広く侵淫していることが明らかにされている。

一方、日本では感染源の1つと考えられているシカからはHEV遺伝子の検出報告はなく、熊本県で実施された調査でも、シカ(肝臓・血液・筋肉)からはHEVは検出されなかった(本号9ページ)。また、ウシ、ヒツジ、ヤギなどの動物からも、HEV遺伝子の検出報告はない(本号10ページ)。

最近、ヒトへの感染性についてはまだ明らかでないものの、HEVと同じくヘペウイルス科に属すると考えられるウイルスが、ラット、ウサギ、コウモリ、フェレットなどからも検出されている(本号10ページ)。 

HEV感染予防:厚生労働省は、平成16(2004)年には通知を発出し注意喚起している(平成16年11月29日食安監発第1129001号医薬食品局食品安全部監視安全課長通知http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/kanshi/041129-1.html)。ホームページに「食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について(E型肝炎Q&A)」を掲載し、ブタならびに野生動物の肝臓・生肉喫食を避け、十分加熱調理して喫食することの必要性を狩猟者、食肉関係者および消費者向けに訴えてきた。国民全体に感染のリスクについてより一層の周知徹底が重要であると思われる。また、流行地へ渡航する際のE型肝炎予防には、A型肝炎同様、飲み水に注意し、加熱不十分な食品の喫食を避けることが必要である。なお、E型肝炎ワクチンは日本においては基礎研究段階である。

 

特集関連情報

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三重県内における日本脳炎患者の発生

(IASR Vol. 35 p. 14: 2014年1月号)

 

2013年9月、三重県内で日本脳炎患者の発生をみたので、その概要について報告する。

症例は三重県在住の70代女性で海外渡航歴はない。日本脳炎ワクチン接種歴は不明。2013年9月初旬頃より38℃前後の発熱を認め、食欲不振があった。発症後7日目に朝からより一層の高熱感を感じており、夕方に痙攣を伴い倒れていたため救急車にて伊勢赤十字病院に搬送された。搬送時の症状は発熱(42℃)、意識障害があり、入院措置となった。入院時の血液所見はWBC 12,600/μLであり、分画では好中球89.6%と高値、リンパ球5.9%と低値を示していた。CRPは0.66mg/dL、CKは2,994 IU/L、LDHは380 IU/Lといずれも高値であった。髄液検査においては細胞数1,176/μL、糖量86mg/dL、総蛋白量146mg/dLと、これら項目が高値を示していた。MRIによる検査では大脳・脳幹に異常信号域の多発を認めた。以上の所見から日本脳炎等を疑い三重県保健環境研究所に検体(血液、血清、髄液)が搬入された。

三重県保健環境研究所において国立感染症研究所(感染研)病原体検出マニュアルに基づきRT-PCR法による日本脳炎ウイルス遺伝子の検出を実施したところ、髄液よりNested PCRで約330bpの増幅産物が確認された。また、感染研より供与されたIgM-Capture ELISAキットを用いた抗体検出により、髄液中および血清中から抗日本脳炎ウイルスIgMが検出された。確認のため感染研において実施された同法でも髄液中および血清中から抗日本脳炎ウイルスIgMが検出され、日本脳炎と診断された。患者は11月時点でも依然として意識障害等が継続した状態である。

日本脳炎はコガタアカイエカ等を介したヒトとブタの人獣共通感染症である。1954年以降、不活化ワクチンの普及により患者数は激減し、また、ヒトにおけるウイルス感染後の発病率が1,000人に約1人程度と低率であることから、現在の日本国内では年間数例の患者発生に留まっているものの、発症すると致死率は約30%と非常に高く、また、生存例のほぼ半数に重篤な後遺症が残るとされる。今回の症例については、患者居住地域近隣に養豚場は存在しておらず、ウイルス保有蚊がこの地域に多く存在していたとは考えにくい。また、当該地域は日本紅斑熱の患者発生が認められているため、当該患者も日常からマダニ咬傷等に十分注意し、肌の露出等が無いようにしていたとのことであるが、8月下旬に彼岸用のシキミ等採取に軽装で入山しており、その時に蚊刺咬をうけた可能性も考えられた。なお、三重県で実施している日本脳炎流行予測調査事業では9月に肉用豚の抗日本脳炎抗体が検出されており、ウイルス保有蚊が現在も三重県内に存在していることが示されている。日本国内においては近年の日本脳炎患者数は年間数例と少ない傾向にあるものの、発症した場合の致死率および後遺症の発生率等を考えると、ワクチンによる疾病予防、特に抗体保有率の低下が著しい50代への追加接種も検討すべきと思われる。ワクチン接種勧奨差し控えの影響を受けた小児への対策については、2010(平成22)年度から順次積極的勧奨が再開され、抗体保有率が上昇してきている。また、コガタアカイエカ等、蚊に対する刺咬を防ぎ日本脳炎ウイルス曝露の機会を減らす対策も必要と考えられる。

 

三重県保健環境研究所 赤地重宏 楠原 一 矢野拓弥 小林隆司 西中隆道
伊勢保健所 豊永重詞 寺添千恵子 大西由夏 鈴木まき
伊勢赤十字病院 坂部茂俊
国立感染症研究所 高崎智彦

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<資料> チフス菌・パラチフスA菌のファージ型別成績
(2013年9月21日~2013年12月20日受理分)
(Vol. 35 p. 21: 2014年1月号)
国立感染症研究所細菌第一部第二室

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Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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