国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.35 No.2(No.408)

日本における重症熱性血小板減少症候群

(IASR Vol. 35 p. 31-32: 2014年2月号)

 

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)は、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルスSFTS virus(SFTSV)(図1)によるマダニ媒介性全身性感染症で、2011年に中国の研究者らにより発表された(本号3ページ)。潜伏期は6~13日で、主徴は、発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血等)である。末梢血液検査では白血球減少および血小板減少が、骨髄検査では細胞低形成と血球貪食像が、生化学検査ではAST、ALT、LDHの上昇が、そして尿検査では血尿および蛋白尿が高頻度で認められる。意識障害等の神経症状が認められる場合は、予後不良とされる。SFTSは2011年の中国での発見の後、2013年に日本と韓国から報告されている。 

SFTSVの自然界における存在様式とヒトへの感染経路:SFTSVの感染サイクルは、経卵性伝搬で成ダニから幼ダニへSFTSVが受け継がれる経路(マダニ-マダニサイクル)と、マダニが感染哺乳動物を吸血しSFTSVを獲得する経路(マダニ-哺乳動物サイクル)の二つがある。中国では、患者の生活圏に生息するフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)およびオウシマダニ(Rhipicephalus microplus)のそれぞれ約5%と0.6%からSFTSV遺伝子が検出もしくはウイルス自体が分離されたことから、SFTSVの宿主はこれらのマダニと考えられている。日本の場合には、国内のSFTS患者の体表から発見されたフタトゲチマダニまたはタカサゴキララマダニ(Amblyomma testudinarium)(図2)がSFTSVを媒介していると考えられる。

ヒトは主にSFTSV保有マダニに咬まれることにより感染するが、中国からの報告によると、血液・体液を介し患者から家族や医療従事者に感染することもある。空気感染、飛沫感染は確認されていない。

日本におけるSFTSの発見と後方視的臨床的・疫学的調査研究:2012年秋に、発熱、嘔吐、血性下痢等の症状を呈した海外渡航歴のない成人が、多臓器不全で死亡した。この患者の血液から分離されたウイルスがSFTSVと同定され、また、病理学的検査でもいくつかの臓器にSFTSV抗原が存在していたことから、当該患者がSFTSに罹患していたことが日本で初めて証明された(IASR 34:40-41, 2013)。この事例を踏まえ、SFTS患者情報を効率的に収集することを目的とした症例定義(http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/rapid/graph/pt39811.gif)が2013年1月30日に通知され(本号4ページ)、この通知に基づくSFTSに関する後方視的調査研究が実施された。その調査で確認されたSFTS患者8名(日本で初めてSFTSと診断された患者を含む)の詳細は既に報告されている(IASR 34:108-109 & 110, 2013)。その後、2012年以前にさらに3名のSFTSによる死亡または重症な経過をとった患者の存在が分かった。これらSFTS患者計11名の解析から、すべての患者は4月~12月にかけて西日本に発生し、そのうち6名が死亡していた。臨床的な特徴として、骨髄検査が実施された5名の患者すべてで血球貪食症候群の所見が認められ、多くの患者で血液凝固系の異常や多臓器不全が認められた。また、これらの患者の8名からSFTSVが分離され、その遺伝子情報を基に、中国分離株と系統樹解析により比較したところ、日本分離株はすべて中国株とは異なるグループを形成した。つまり、日本分離株は独自の進化を経ている、いわゆる土着のウイルスであることが明らかにされた(本号5ページ)。

2013年の日本におけるSFTSの患者報告状況:2013年3月4日にSFTSは感染症法で全数把握の4類感染症(届出基準:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-43.html)に、SFTSVは三種病原体に指定された(IASR 34:110-111, 2013、本号7ページ)。医師はSFTSと診断した場合には24時間以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。

感染症法に基づく感染症発生動向調査による届出患者報告数は、2013年末までに48例で、そのうち、2013年の発病が40例(本号8ページ)、2012年以前の発病が8例(2005年2例、2010年1例、2012年5例:IASR 34:110, 2013)であった。患者発生時期は5月がもっとも多く(図3)、患者発生地域は九州、四国、中国地方の西日本の13県であった(図4)。男性22例、女性26例で、中高年に多かった(48~95歳、年齢中央値は72歳)(図5)。死亡した者は17例であった。

2013年にSFTSの存在が認知され、SFTS検査が実施される患者が増加したことにより、比較的軽症のSFTS患者の存在も明らかにされた(本号9ページ、IASR 34:207-208, 2013)。また、マダニに咬まれた事実が確認されない患者も報告されているため、SFTSが疑われる患者には、マダニの刺し口の有無にかかわらずSFTSの検査をすることが望ましい(本号8ページ)。

日本における検査体制:ウイルス学的診断法としては、急性期の血液やその他の体液(咽頭ぬぐい液や尿)からのSFTSVの分離、RT-PCR法等によるSFTSV遺伝子の検出、急性期および回復期のペア血清を用いたSFTSVに対するIgG抗体価の有意な上昇の確認、等の検査がある。現在、国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部および全国の地方衛生研究所(地衛研)において、RT-PCR法によるSFTSV遺伝子検査が実施できる体制が整備された。感染研および一部の地衛研では、SFTSV感染細胞を抗原とした間接蛍光抗体法やSFTSV抗原を用いたIgG-ELISA法による抗体測定法も整備され(本号10ページ)、国内に生息するマダニからのSFTSV遺伝子検出や動物のSFTSV抗体保有状況の調査も実施されている(IASR 34: 303-304, 2013)。

今後の課題:2013年1月に日本でSFTS患者が初めて確認され、さらに前方視的および後方視的な調査により、SFTSが日本で発生していることが明らかにされた。今後、感染研および地衛研におけるSFTSの検査体制を協力して維持・発展させていく必要がある。厚生労働省の助成により平成25年度から3年間をめどに、SFTS対策を目的とした厚生労働科学研究費補助金研究事業「SFTSの制圧に向けた総合的研究(研究代表者・倉田毅)」が立ち上げられ、SFTS対策のための研究が開始された。有効な感染症対策を立てるには、1) SFTS発生の詳細な解析、臨床的特徴や病態の解明およびそれに基づく治療法の開発、2) SFTSの迅速診断キットの開発、3) ワクチン開発のための基盤整備、4) SFTSV感染リスク評価とそれに基づくリスクコミュニケーションのあり方の開発、5) 日本に生息するマダニにおけるSFTSV陽性率・SFTSV陽性マダニの分布・野生動物における血清疫学調査、それに基づくSFTSV分布域の解明、等の調査研究が必要である。

 

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