国立感染症研究所

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侵襲性肺炎球菌感染症・侵襲性インフルエンザ菌感染症の発生動向
     ―2013年4月からの5類全数届出の状況について―

(IASR Vol. 35 p. 46-48: 2014年2月号)

 

背 景:1981年7月に開始された感染症サーベイランス事業によって、肺炎球菌およびインフルエンザ菌を原因とする髄膜炎は定点医療機関からの細菌性髄膜炎の報告の一部として収集され、1999年4月に感染症法が制定された後も、感染症法に基づく感染症発生動向調査において5類定点疾患として全国約460カ所の基幹定点からの週ごとの報告が2013年3月まで行われてきた。

7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2009年10月にわが国で承認され、2010年11月から5歳未満の小児に対するPCV7接種の公費助成が開始された。2007年から始まった厚生労働省班研究(庵原・神谷班)における、2011年10月時点でのワクチン公費助成前後の比較では、髄膜炎で71%の減少、非髄膜炎で52%の減少となっている1)。一方、2008年12月にはHaemophilus influenzae b型(Hib)ワクチン接種が開始され、2010年11月に5歳未満の小児に対するHibワクチン接種は公費助成対象となり、2013年4月の予防接種法の改正に伴いHibワクチンは定期接種に組み込まれた。厚生労働省班研究(庵原・神谷班)の調査結果から、2011年10月時点でのワクチン公費助成前後の比較では、髄膜炎で92%の減少、菌血症を伴う非髄膜炎で82%の減少となっている2)

2013年4月にPCV7とHibワクチンが定期接種(A類)の対象となったことを踏まえ、同時期から侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)および侵襲性インフルエンザ菌感染症(invasive Haemophilus influenzae disease:ここでは以下IHDとする) が感染症法に基づく感染症発生動向調査において5類全数届出疾患となった。今回、感染症法に基づく届出状況について、2013年の患者発生動向の概要を中間報告する。

方 法:感染症サーベイランスシステム(NESID)に2013年4月1日~11月7日までに登録された症例に対し、患者の性別・年齢、症状や診断状況および病型などの疫学情報を集計した。また、届出情報に含まれる臨床情報や病原体検査所見から侵襲性感染症(菌血症、髄膜炎、肺炎)の確定診断を以下のように定義した。すなわち、1.菌血症:血液検体から培養またはPCR法で菌の遺伝子が検出された症例、2.髄膜炎:症状欄に「項部硬直」または「髄膜炎」の記載があるか、髄液から培養またはPCR法で菌が検出されたか、ラテックス法または イムノクロマト法にて菌抗原を検出した症例、3.肺炎:症状欄に「肺炎」の記載がある症例。これらの診断を基本として、1.菌血症(肺炎、髄膜炎を伴わない)、2.菌血症を伴う肺炎、3.髄膜炎(菌血症、肺炎の有無を問わない)の3つの臨床像に分類して集計した。

結 果:上記期間中の総報告症例数はIPD 671例、IHD 89例であった。IHDの総症例数はIPDの13.3%であった。表1にはIPD、IHDの臨床像別の症例数を示した。図1にはIPDとIHD症例の年齢別構成を臨床像別に示した。年齢構成は、IPD、IHDともに5歳未満の小児と60歳以上の高齢者に症例の集積があり、二峰性の分布を示している。とりわけ、わが国の高齢者におけるIHDの集積は、今回初めて明らかになった。IPD、IHDのいずれにおいても男性が6割程度を占めた。IPD、IHDの致命率はそれぞれ5.8%、8.0%であり、死亡例はいずれの場合も高齢者に集中していた。小児のIPDでは、菌血症(64%)が最多で、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎がそれに続いた。一方、成人のIPDでは、菌血症を伴う肺炎、菌血症がいずれも約4割であり、髄膜炎は2割程度であった。小児のIHDでは、菌血症(64%)が最多で、髄膜炎がそれに続いた。成人のIHDでは、菌血症を伴う肺炎(60%)が最多であり、菌血症がそれに続いた。髄膜炎は6%にとどまった。

考 察:2013年4月から約7カ月間におけるわが国のIPDおよびIHDの発生動向とそれぞれの臨床像の概要を明らかにした。今回の小児IPDの症例数では髄膜炎は16%にとどまり、菌血症が64%を占めていたが、この結果は、前述の庵原・神谷研究班で、PCV7導入前に比較して、髄膜炎が70%減少し、非髄膜炎は50%減少にとどまっている結果と矛盾しない1)。また、わが国における小児のIPDの臨床像は菌血症が大半を占めていたが、この結果はPCV7定期接種導入前のオーストラリアのニューサウスウェールズ(NSW)州から報告された小児IPDの病像と一致する結果であった3)。今回の成人IPD症例の臨床像では菌血症を伴う肺炎と菌血症の両者が約4割を占めたのに対し、NSWにおける成人のIPDでは菌血症を伴う肺炎が 7~8割と大半を占めた点で今回のわが国の結果とは異なっていた2)。また、肺炎球菌による髄膜炎の症例数は小児より成人が多かった。

庵原・神谷研究班における小児IPD症例から分離された肺炎球菌の血清型分布の検討では、PCV7公費助成前には6B、14、23F、19Fの順に多かったのに対して、PCV7公費助成後には、血清型の割合は19A、6B、14、23Fの順に多いが、PCV7非含有血清型である19A、15A、 15B、15C、22F、6C等が増加している1)。結果的に、PCV7公費助成前のIPDの原因菌の血清型カバー率は77.2%であったのに対し、公費助成後には44.4%まで減少しており、PCV7導入後の短期間で原因血清型の変化が明確になっている。このような非PCV7血清型によるIPDの対策として、2013(平成25)年11月からはPCV7に代わって13 価結合型肺炎球菌ワクチンが定期接種ワクチンとして導入され、今後は少なくとも血清型19AによるIPDは減少すると予想される。

Hibワクチン導入前に比較して、小児のIHDのうち髄膜炎は9割、菌血症を伴う非髄膜炎は8割が減少した背景もあり2)、今回の小児のIHD症例数は小児、成人の総症例数の25%に過ぎなかった。一方、今回わが国の成人におけるIHDの発生動向が明らかになり、成人とりわけ60歳以上の壮年~高齢者を中心に菌血症を伴う肺炎が多数例検出されたことは注目に値する。米国での1999~2008年におけるIHDの患者発生動向調査においても、小児では菌血症が主体であるのに対し、成人ではとりわけ高齢者で菌血症を伴う肺炎が大半を占めることが報告されている4)

IHD患者由来の菌株の莢膜型は、任意接種前にはHibが97%、型別不能株(non-typable H. influenzae; NTHi)は3%に過ぎなかったが、公費助成開始後にはHibが83%、NTHiが17%とNTHiの割合が増加している2)。このようなHibワクチン導入後のNTHiによるIHDの増加は海外でも報告されており5,6)、さらに近年ではa型の莢膜株(Hia)によるIHDの増加も報告されている7)

このような小児におけるPCVおよびHibワクチンの定期接種化後のIPDおよびIHDの原因血清型の変化から、今後もこれらの侵襲性感染症の感染症発生動向のみならず、原因菌の血清型の動向を継続して監視する必要がある。しかしながら、感染症発生動向調査による届出は研究を目的としたものではないことから、原因菌の血清型診断はほとんどの症例で届出時には記載されていない。このため、平成25年度から厚生労働省班研究「成人の重症肺炎サーベイランス構築に関する研究」において、10道県におけるIPDおよびIHDの原因菌の調査を開始しており8)、今後地方衛生研究所に対する血清型診断の技術研修を支援する予定である。

(謝辞) 感染症発生動向調査には地方情報センター、保健所、医療機関の皆様のご協力に感謝申し上げます。

 

参考文献
1) IASR 34: 55-56, 2013
2) IASR 34: 185-186, 2013 
3) McIntyre P, et al., NSW Public Health Bulletin 14: 85-89, 2003
4) Livorsi DJ, et al., J Infect 65: 496-504, 2012
5) Dworkin MS, et al., Clin Infect Dis 44: 810-816, 2007
6) Kastrin T, et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 29: 661-668, 2010
7) Ulanova M, Tsang RSW, Lancet Infect Dis 14: 70-82, 2014
8) 成人の侵襲性細菌感染症サーベイランス構築に関する研究
     (http://www.niid.go.jp/niid/ja/ibi.html

 

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  牧野友彦 高橋琢理 大日康史 松井珠乃 砂川富正 石岡大成 大石和徳  
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  大西 真 常 彬  
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