国立感染症研究所

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<速報>チクングニア熱のトンガ王国からの輸入症例―三重県

(掲載日 2014/5/15) (IASR Vol. 35 p. 152: 2014年6月号)

 

2014年3月、トンガ王国より帰国し、チクングニア熱と確定診断された症例について報告する。

症例と経過:26歳の男性、伊勢市在住。トンガ王国にて業務のため2012年秋より滞在中で、2014年3月20日に一時帰国した。帰国前の3月15~18日にかけ、業務のため藪に立ち入っており、蚊に刺されたとの稟告があった。3月22日より関節痛と体幹部の発疹を認め、翌23日には37℃の発熱、軽度の吐き気を伴い関節痛の増悪を自覚したため、3月24日に近医を受診、3月25日には伊勢赤十字病院を受診した。稟告と症状からデング熱等の感染症を疑い、三重県保健環境研究所に血液、血清、尿の検体提出があった。初診時の血液検査所見はWBC 4,200/μL、RBC 552万/μL、Hb 16.9 g/dL、Ht 47.5%、Plt 17万8千/μL、CRP 4.24 mg/dL、AST 23 U/L、ALT 15 U/Lであり、CRPの上昇が認められたが、その他はほぼ正常範囲内であった。3月25日にアセトアミノフェン製剤が処方され、3月26日以降の発熱は認められなかった。発疹は3月27日に全身に出現し、3月29日には消褪傾向となった。また、軽度の関節痛は4月1日まで認められた。症状は比較的軽度であったため入院はせず、4月1日の受診をもって完治とされた。

ウイルス学的検査:3月25日に採取された検体(全血、血清、尿)を用いてデング熱およびチクングニア熱の検査を実施した。

デングウイルスについてはデング熱迅速抗体検査キット(PanBio社)によるIgG、IgM検査、デングウイルスNS1抗原検出キット(BioRad社)によるNS1抗原検査、デングウイルス感染症診断マニュアルに基づくConventional RT-PCR法によるデングウイルス遺伝子検査を実施したが、いずれも陰性であった。

チクングニアウイルスについては、チクングニアウイルス検査マニュアルに基づき、Conventional RT-PCR法によるチクングニアウイルス遺伝子検査を実施したところ、全血、血清検体よりチクングニアウイルス遺伝子を疑われる増幅産物が認められた。これらPCR増幅産物をダイレクトシークエンス法により配列解析したところ、チクングニアウイルス由来であることが確認され、当該患者はチクングニア熱であると考えられた。また、検体を国立感染症研究所に送付したところ、Real-time RT-PCR法(TaqMan法)によりチクングニアウイルス遺伝子陽性であることが確認された。

考 察:チクングニアウイルスはデングウイルスと同じ媒介蚊(ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ)の刺咬により感染する。臨床症状が類似していること、アジア・アフリカ地域でのデング熱、チクングニア熱の流行地域は重複していることが多いことから、輸入症例の場合は両疾患の検査を並行して実施することが重要とされている。今回の症例も当初はデング熱を疑ったものであった。トンガ王国においてはデング熱の報告はあるものの、チクングニア熱の報告例については情報がない。当該患者の旅程は、トンガ王国出国後はオークランド経由で空港外に出ることなく日本に帰国していること、チクングニア熱の潜伏期は3~7日間とされていること、隣国のパプアニューギニア、ミクロネシアにおいてはチクングニア熱の報告例があることから(http://www.cdc.gov/chikungunya/geo/index.html)、ウイルス保有の媒介動物が既にトンガ王国内に侵入し、流行が起きつつあることも考えられた。また、チクングニア熱は急性期の患者血液中にウイルスが多く含まれているとされており、急性期患者を刺咬した蚊にウイルスが伝達され、チクングニア熱の流行原因となった事例も知られている。本症例のように軽症例で通院が可能な場合も予想されることから、発症した後の患者に対し、蚊の忌避対策について指導することも重要と思われる。

 

三重県保健環境研究所 赤地重宏 楠原 一 矢野拓弥 小林隆司 西中隆道
伊勢保健所 豊永重詞 大西由夏 鈴木まき
伊勢赤十字病院  辻 幸太
国立感染症研究所 高崎智彦

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