病原微生物検出情報(月報)Vol.17 No.8(No.198) 1996年8月発行

(事務局 :感染研 特集「腸管出血性大腸菌O157:H7 の集団発生」より許可を 得て全文転載。)

<特集>腸管出血性大腸菌O157:H7 の集団発生
 Vero毒素を産生する大腸菌を一括してVero毒素産生性大腸菌(Verotoxin- producing E.coli;VTEC)と総称し、このうちで出血性大腸炎を起こ すカテゴリーのものを腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E.coli ;EHEC)という。出血性大腸炎(Hemorrhagic colitis)やそれ に続発する溶血 性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome;HUS )を引き起こす原因物質とし ては、EHECが産生するVero毒素(Verotoxin ;VT)が最も重要である。なお、EHEC に含まれる血清型はO157:H7だけではなく、それ以外の血清型、 例えばO26:H11、O91:H21、O111:H-、O113:H21、O145:H-などがある。
 本年5月28日、岡山県邑久町の小学校において腸管出血性大腸菌O157:H7によ る患者数468 人の集団食中毒が発生し、そのうち2名の児童がHUS を併発し死亡 した。この事件に引き続き、広島県、岐阜県、愛知県等でも該菌による集団食中 毒が続発し、マスコミも連日のように大きく取り上げ、広く一般の人びとの関心 を集めていた。その後、それらの事件もどうにか収まりかけていた矢先、7月 13日大阪府堺市の小学校でO157:H7による今までに類を見ない極めて大規模な学 校集団食中毒が発生し、7月22日現在、患者学童は 6,176名、学童の重症者77名、 うち19名が重体、2名が危篤状態となる深刻な事態に陥っている。
 腸管出血性大腸菌O157:H7は、1982年〜1983年に、米国およびカナダで発生し た下痢便中に明らかな血液の混在が見られた食中毒の際に、初めて発見された下 痢原性大腸菌であり、それ以来現在までに米国とカナダで20件以上の集団発生が 確認されているが、その事例のほとんどがハンバーガーまたは牛挽肉が原因食で あった。一方、わが国においても1990年10月、埼玉県浦和市の幼稚園でO157:H7 に汚染された井戸水が原因となった集団下痢症が発生し、2名の園児がHUS で死 亡した。今までに、わが国でO157:H7による事例は、集団および散発を含め、多 くの事例が報告されている(本月報Vol.14, No.10, 1993; Vol.17, No.1, 1996 参照)。今や腸管出血性大腸菌O157:H7による感染症は、わが国においては それほど稀な疾病ではないものと認識しなければならないであろう。
 岡山県邑久町の集団発生事例以降の腸管出血性大腸菌O157 による食中毒等の 発生は、1都2府36県から報告があり( 図1 )、有症者累計8,314 名で、現在入院中565 名、5名が死亡した。その内訳 は以下のとおりである(1996年7月22日現在、厚生省生活衛生局食品保健課)。
 (1)都道府県等から厚生省に食中毒として報告のあったもの:1都2府13県 から報告があった。有症者累計は8,004 名で、現在496 名が入院中であり、4名 が死亡した。集団発生13事例の要約を 表1 に示した。5月28日に岡山県邑久町に端を発した腸管出血性大腸菌O157:H7によ る食中毒は、その後他地域でも発生、特に7月13日に大阪府堺市に発生した事例 は、これまでに類を見ない、世界的にも極めて超大型の食中毒発生事件となっ た。
 (2)都道府県等から厚生省に食中毒の疑いとして報告があったもの:1府7 県から報告があった。有症者累計は69名、現在1名が入院中である。
 (3)その他(散発事例等):1都2府28県から報告があった。有症者累計は 241 名で、現在入院中68名、死亡者は1名である。
 なお、6月10日に発生した岐阜市の小学校の集団事例において、給食メニュー 中のおかかサラダから腸管出血性大腸菌O157:H7が検出され、また6月18日の神 奈川県三浦市の散発事例における追跡調査では、原因食と推定された牛レバー等 からO157:H7が分離されている。しかしながら、これらの2事例以外に原因食品 等が特定された事例は、残念ながら皆無である。
 腸管出血性大腸菌O157:H7による感染症は、その潜伏期間が一般の食中毒菌よ りかなり長いので(4〜9日)、その感染源の特定が困難なことが多い。しかし ながら、今までの欧米での疫学調査から、その汚染源は家畜、特に牛の糞便であ り、食肉を処理する施設までの過程で汚染を受ける。稀に他の食品や飲料水が原 因とされた事例もあるが、これらは糞便または肉からの二次汚染と推察される。 一方、人から人への二次感染を疑われる事例が、わが国においてもかなり認めら れており、腸管出血性大腸菌O157:H7による感染症は、赤痢と同様に少数菌によ る感染が成立し、従来の食中毒菌とはその様相がかなり異なる。従って、本菌感 染症の予防対策は、このことに十分に留意した上で、対応しなければならない。


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