腸内細菌の抗原

寒天培地上での通常の発育状態(図左)と鞭毛形成を阻害した発育状態(図右)
のProteus(写真提供:島田俊雄博士)
腸内細菌の抗原は、O 、H 、K および線毛(fimbriae;F)抗原の4種類に大
別され、O は菌体、H は鞭毛、K は莢膜(ドイツ語の Kapsel に由来する)の
抗原を指す。O および H のいわれは、Proteus*のswarming現象に由来す
る。すなわち、Proteusで、鞭毛をもつ菌株を寒天培地に培養すると、鞭
毛による菌の運動性により培地の表面全体に広がって発育し、集落を形成しない
(swarming(遊走):図左)。一方、培地にフェノールや胆汁酸塩などを添加し
て鞭毛の形成を阻止した培養菌は、swarmingを起こさずに、単独集落を作る(図
右)。このswarmingした状態は、あたかも寒い日に窓ガラスに“はぁー”と息を
吹きかけたとき、ガラスが白く曇る様子(これをドイツ語で“Hauch”と言う)
に似ている。このことから、Proteusのswarming現象を“Hauch”(図左)
と、また鞭毛のない菌の発育を “Hauch” ではないと言うことから“ohne Hauch”
(図右)という言葉で表現した。これらを語源として、鞭毛を持つProteus
の菌株を H 型、鞭毛を保有しない無鞭毛菌株を O 型と呼ぶようになった。その
後、この呼称は、swarmingの有無にかかわらず、大腸菌やSalmonellaを
始めとする全ての腸内細菌やVibrioなどにも適用され、鞭毛の抗原を H
抗原、また菌体の抗原をO 抗原と呼ぶようになった(
腸管出血性大腸菌 O157:H7 の電子顕微鏡写真参照)。
H抗原となる鞭毛はflagellin蛋白質の重合により繊維状構造を形成し、この繊
維を回転させることにより菌に運動性を与える。O抗原となるLPS
(lipopolysaccharide(リポ多糖))は菌の外膜(細胞壁)に存在し数種類の糖
が繰り返しつながったものである。糖の種類やそのつながり方により抗原性が異
なって現れる。これらの抗原(主にO およびH)を組み合わせたものを血清型と
言う。大腸菌、Salmonella、赤痢菌などでは、それらの血清型をまとめた
抗原構造表が国際的に統一されている。
*Proteus:大腸菌、Salmonella、赤痢菌などと同じ
Enterobacteriaceae(腸内細菌科)に属するグラム陰性の桿菌
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